北綾瀬署刑事組織犯罪対策課・組織犯罪対策係に勤務する巡査部長甘糟達夫が当番の日、北綾瀬署管内で殺人事件が発生した。被害者が暴力団員であることから、甘糟や甘糟の先輩で相棒でもある郡原虎蔵も捜査本部に呼ばれることになった。しかし、警視庁捜査一課の刑事たちとの捜査にもかかわらず、事件はなかなか解決の様相を見せないのだった。
本書の主人公の甘糟達夫は、そもそも今野敏の任侠シリーズの新しいネタを探していて見つけたキャラだそうです。そういう意味でマル暴甘糟シリーズの持つユーモラスな雰囲気は、任侠シリーズからきていると言ってもいいのかもしれません。
今野敏という作家は、作品に登場するキャラクターの作り方がうまいと常に思っているのですが、本書のキャラクターもその例にもれません。警察であるにも関わらず、「粗暴」という言葉がピタリと当てはまる印象の組織犯罪対策課、通称「マル暴」ですが、本作品の主人公の甘糟は、童顔で気の弱い「マル暴」なのです。
このユニークな主人公に対して配されているのが警視庁捜査一課のエリート警部補梶伴彦です。この男が甘粕の先輩である郡原虎蔵と常に対立するため、甘糟はこの二人に振り回されることになります。これに対し、暴力団多嘉原連合の若頭唐津晃が、被害者をかわいがっていた兄貴分として、事件をかき回す役目を担わされていています。
今野敏には他に『逆風の街―横浜みなとみらい署暴力犯係』から始まる「横浜みなとみらい署」シリーズという「マル暴」の警官を主人公とした作品があります。同じ今野敏という作家の書いたこの二つの作品を読み比べてみるのも面白いでしょう。