梶尾 真治

イラスト1
Pocket


あの大地震から二年。熊本で、死者が次々生き返る“黄泉がえり”現象が再び発生した。亡くなった家族や恋人が帰還し、驚きつつ歓迎する人々。だが、彼らは何のために戻ってきたのだろう。元・記者の川田平太は、前回黄泉がえった男とその妻の間に生まれた、女子高生のいずみがその鍵を握ると知るのだが。大切な人を想う気持ちが起こした奇跡は、予想を遙かに超えたクライマックスへ―。(「BOOK」データベースより)

 

梶尾真治著の『黄泉がえりagain』は、かつて映画化もされたベストセラー『黄泉がえり』の続編の長編のSF小説です。

 

その『黄泉がえり』には、「益城町下を走る布田川活断層の熊本市寄りの地域」で「震度7の揺れ」が起きかけるという、まるで2016年に発生した熊本地震を予言したかのような設定があったそうです。私は全く忘れていました。

もちろん偶然ですが、この熊本地震をきっかけに本書『黄泉がえりagain』が書かれたそうで、小説は『熊本日日新聞』土曜夕刊に、1999年4月10日から2000年4月1日まで連載されました。

 

 

前回の「黄泉がえり」から十七年、熊本の街に再び黄泉がえり現象がおきます。

本書の中心人物の一人で『黄泉がえり』にも登場していて今はフリーランスのライターである川田平太は、二年前に死んだはずの母親が黄泉がえったことを知ります。

そこに肥之國日報時代の後輩の室底から連絡が入り、調べてみると熊本市電のB系統沿線で黄泉がえりが発生していること、今回の黄泉がえり現象の中心にいるのは一人の女子高校生であることに気が付きます。

また、意外な人物も黄泉がえり、前回の黄泉がえりとは少々その様相を異にしていることが次第に明らかになっていくのでした。

 

今回の黄泉がえりは前回ほどのロマン性はないと言っていいかもしれません。黄泉がえりという不可思議な現象自体は超生命体の存在という一応の解明がなされているので、今回は何故再び黄泉がえり現象が起きたのか、という点に焦点が当たっています。

途中、本書の現象の中心に位置する一人の女子高生をめぐる出来事が起きたりもしますが、そのこと自体はあまり意味を持ちません。その出来事自体は尻切れトンボと言ってもいいほどです。

すべてはクライマックスに向かって突き進みます。ただ、その過程の描き方がいかにも梶尾真治であり、熊本に、そして人間に対する優しさに満ち溢れているのです。

 

本書は「熊本」が舞台で、それも熊本地震がテーマであるため、実際熊本地震に遭遇した私にとっては一段と身近に感じられる小説でした。

事実、本書の冒頭で、ある女性の、「秘密のケンミンSHOW」を見ていた、という一文がありますが、まさに前震が来たとき、私も家族とともに「秘密のケンミンSHOW」を見ていました。そして、その翌日の深夜(16日)に本震が来たのでした。

さらに言えば、熊本城内にある「熊本城稲荷神社」についても書かれていますが、この神社の先代宮司は私の飲み友達でもありました。若い頃に、仲間とグループを作り飲み歩いた仲間でしたが、先年若くして逝ってしまったのは残念です。

そしてもう一点。本書には天草をかすめ宇土半島方向から上陸した1991年の19号台風、通称「りんご台風」についての記述があります。

私も熊本に被害をもたらした台風が1991年の19号台風だとずっと信じていたのですが、調べてみるとこの19号台風は長崎の佐世保付近に上陸していて、宇土半島付近には上陸していません。この点は作者の勘違いなのか、私のさらなる間違いなのか、定かではありません。

 

話題が本書から離れてしまいましたが、本書の「解説」の中で大矢博子氏は、本書の主人公は「熊本」だ、と書いておられますが、まさにその通りだと思います。

以上述べてきたように熊本という街が舞台になっていることもそうではあるのですが、梶尾真治という作家は、熊本県民の、「熊本」という地方の再生に対する“思い”そのものを描いていると思うからです。

そんな「思い」を実感したのが、地震に関する情報が整理されていく中で、熊本城の悲惨な状況を見て胸が苦しくなったのを感じたときでした。熊本のシンボルとは言っても、まさかこのような哀しみにとらわれるとは自分でも意外でした。

周りの人たちにしても、自分の家の復旧も大変なのに、熊本城の復旧に多額の費用を費やすことに異論を聞いたことがありません。それだけ、熊本城が市民、県民の心に息づいているものだと、あらためて思い知らされたものでした。

 

本書では、ネタバレにはならないと思うので書きますが、その熊本城の築城主である加藤清正が登場してきます。

熊本県民が清正公(せいしょこ)さんと親しみを込めて呼ぶ清正公は、思いのほかに熊本市民、熊本県民の心に根差しているのです。ただ、本書での加藤清正に対する登場人物たちの思い入れを、他の地方の読者にどれだけ分かってもらえるのだろうか、その点に若干の心配があります。

 

今回、再び黄泉がえりが始まったのは何故か。物語はクライマックスに向けてテンポよく進みます。

その結末そのものは納得がいくかどうかはさておいても、少々まとまりが良すぎる気もします。

とはいえ、素直に考えれば文句を言う方がおかしいのであり、そうした感想は一読者の身勝手な感想でしかないでしょう。

[投稿日]2019年05月19日  [最終更新日]2019年5月19日
Pocket

関連リンク

【熊日夕刊】『黄泉がえりagain(アゲイン)』連載中~
在熊の作家・梶尾真治さんの「黄泉がえり」続編が、7月1日から、毎週土曜日の熊日夕刊終面で始まります。死んだ家族が生き返ってくる-。「黄泉がえり」は1999年から熊日夕刊で連載。後に草彅剛さん主演で映画化されました。今回は、その続編「黄泉がえりagain[アゲイン]」。
加藤清正や恐竜も復活、愛のありかたを描く感動作 (2019年3月19
映画化されたヒット作『黄泉がえり』の続篇。前作同様、死者がつぎつぎと生き返る"黄泉がえり"の顛末を描く。日本SF界における「ロマンスの王様」梶尾さんの作品らしく上品なラブストーリーの要素もあり、作者自身の地元でもある熊本を舞台としたご当地小説でもあり、そして災害に立ちむかう人間の姿を描いた作品でもある。

「黄泉がえりagain」への2件のフィードバック

  1. この台風、もしかしたら平成11年の18号?
    不知火?だったかなあ~高潮で12人亡くなった台風じゃないかしら?

    1. 平成11年の18号は熊本県の北部に上陸したとありました。これのことだったのかな?

      どうも、この18号台風やリンゴ台風などが私の頭の中でごちゃ混ぜになっている気がします。

moko へ返信する コメントをキャンセル

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です