宇宙から人体へ。次なる部隊は大地。佃製作所の新たな戦いの幕が上がる。倒産の危機や幾多の困難を、社長の佃航平や社員たちの、熱き思いと諦めない姿勢で切り抜けてきた大田区の町工場「佃製作所」。高い技術に支えられ経営は安定していたかに思えたが、主力であるロケットエンジン用バルブシステムの納入先である帝国重工の業績悪化、大口取引先からの非情な通告、そして、番頭・殿村の父が倒れ、一気に危機に直面する。ある日、父の代わりに栃木で農作業する殿村のもとを訪れた佃。その光景を眺めているうちに、佃はひとつの秘策を見出だす。それは、意外な部品の開発だった。ノウハウを求めて伝手を探すうち、佃はベンチャー企業にたどり着く。彼らは佃にとって敵か味方か。大きな挫折を味わってもなお、前に進もうとする者たちの不屈の闘志とプライドが胸を打つ!大人気シリーズ第三弾!!(「BOOK」データベースより)
本書は、第145回直木賞を受賞した『下町ロケット』の続編『下町ロケット ガウディ計画』に続くシリーズ第三弾です。
今回も佃製作所に難題が降りかかります。
それはまずは佃製作所の内部の問題として佃製作所の経理を見てきた殿村の父親が倒れたという知らせであり、殿村は実家の畑をも見なければならくなったのです。
また取引関係では、一つには重要な取引先である帝国重工の社長交代劇による方針転換で、ロケット打ち上げが見直しされることになります。言うまでもなく、佃製作所のロケット用バルブにとっても影響のある方針転換でした。
そして、大口取引先であるヤマタニからは佃製作所との取引関係の縮小が告げられます。そのため、佃製作所社長の佃航平は新しい分野への新規参入を目指しますが、それこそが本書での主要なテーマとなるトランスミッション事業への参入です。
トランスミッションに関しては全く素人である佃製作所は、まず既存のメーカーへのトランスミッション用のバルブ納入を目指すことになります。そこで、登場するのがベンチャー企業であるギアゴーストだったのです。
本書はこのギアゴーストという会社降りかかる様々な問題について、佃製作所が自らの問題として対処していくその様が描かれることに主眼が置かれます。
最初は、佃製作所はギアゴーストの行うバルブに関するコンペに参入し、勝ち抜く必要がありました。そこで、ギアゴーストの提示する仕様をクリアするための若手技術者が苦労する姿が描かれます。
次にギアゴーストに特許権侵害訴訟という思ってもいない難題が降りかかり、そこに佃製作所が助けの手を差し伸べます。そして、第一巻で登場した弁護士神谷修一が登場し、再度辣腕を披露するのです。
このように、本書で起きるイベント(障害)自体はこれまでも佃製作所自身に降りかかってきた難題と似ています。しかし、勿論その具体的な内容は異なり、全く新たな物語として読むことができるのです。
ただ、殿村の個人的な問題はまた異なります。殿村という人間自身の問題の延長上に佃製作所が存在するのであり、少なくとも本書においてはあくまで殿村個人の問題です。
そして、本書冒頭で示された帝国重工の内部問題から波及する佃製作所のバルブ供給に関する問題は、今秋にも発売されることになっているシリーズ第四弾『下町ロケット ヤタガラス』へと持ちこされています。
本書においても佃製作所社長佃航平の人を重視し、信頼する経営哲学は生きています。その上で、現実には経営者として失格と評されるような決断も結果論としては上々の結果を生みだし、痛快小説としての十分なカタルシスをもたらしてくれます。
現実には人情論を優先させていては企業経営は成り立たないという話はよく聞くところです。しかし、せめて小説の中では人間を信頼し、暖かな気持ちになりたい、そうした心情を十分に満たしてくれるのです。
ちなみに、『下町ロケット』、『下町ロケット ガウディ計画』はTBSでドラマ化され大ヒットしましたが、本書もこの秋からTBS系列の日曜劇場枠でのドラマ化が決定しています。主演は勿論阿部寛であり、多分ですが、この秋の発売が決定している本書の続編『下町ロケット ヤタガラス』も原作としてドラマ化されるのではないでしょうか。