『暗黒戦鬼グランダイヴァー』とは
本書『暗黒戦鬼グランダイヴァー』は、2024年12月にKADOKAWAから376頁のハードカバーとして刊行された、長編の警察アクション小説です。
装甲防護服に身を包んだ警察官を主人公に「異人」の犯罪者を相手に戦うアクション作品で、それなりに面白く読んだ作品です。
『暗黒戦鬼グランダイヴァー』の簡単なあらすじ
麻薬と暴力で荒廃した近未来の東京。警視庁機動制圧隊の深町辰矛は「ダイバースーツ」と呼ばれる装甲防護服に身を包み、反社会的勢力「異人」の生け捕りを任務としていた。職務中、辰矛は異人グループから襲撃を受けて瀕死の重傷を負い、さらに同僚と恋人を目の前で殺されてしまう。そんな地獄から辰矛を救ったのは、異人をも凌ぐ暴力で敵を薙ぎ倒す「漆黒のダイバー」。その正体と目的は?絶望の淵から生還し、復讐のために立ち上がった辰矛。彼の行く末は正義の執行人か、それともテロリストかー。(「BOOK」データベースより)
『暗黒戦鬼グランダイヴァー』の感想
本書『暗黒戦鬼グランダイヴァー』は、「ダイバースーツ」と呼ばれている装甲防護服(パワードスーツ)に身を包んだ警察官を主人公とする、近未来を舞台とした長編の警察アクション小説です。
その主人公が、異人からも警察からも追われている「黒い悪魔」に助けられ、その後「異人」の犯罪者を相手に戦うエンターテイメント作品で、まだ半端な印象ではあるものの、それなりに面白く読んだ作品でした。
近年の誉田哲也の作品は何となくの政治色を帯びているように感じますが、本書は特にその傾向が色濃く出ている作品でした。
例えば、前作の『首木の民』では、「経済」の問題、それも古くから経済政策の二大潮流として言われている積極財政と緊縮財政との対立を、この作者らしいエンターテイメント作品として仕上げてありました。
本書の場合、日本ではそれほど大きな問題にはなっていないようですが、しかし諸外国ではかなり大きな問題となっている移民問題を取り上げてあります。
しかし、外国人犯罪の増加が言われている日々のニュースを見ていると、わが日本でも決して他人事とは言えない時代に来ているのかもしれません。
そうした時代背景のなか本書『暗黒戦鬼グランダイヴァー』では、出自も明確ではなくて日本社会を構成している団体のひとつとなっている移民集団を「異人」として取り上げ、その中の犯罪者集団を敵役としています。
そして、異人の犯罪グループを取り締まる担当になっている警察組織を作出し、その主人公が「現代版必殺仕事人」のような組織の一員となっていく様子が語られているのです。
警察内部の仕置人的存在を主人公にした作品といえば、中山七里の『祝祭のハングマン』があります。
中山七里が「現代版必殺仕事人」を書いてほしいという依頼に応じて書かれた作品だそうです。
また、読み進んでいる途中に「装甲防護服」から思い出したのは月村了衛の『鬼龍警察シリーズ』です。
『鬼龍警察シリーズ』の場合は、警視庁特捜部が保有する外装装置を個性的な操縦者が操縦し闘う物語です。つまり、人間が操縦するロボットのような乗物、という認識でそうは離れていないと思います。
一方本書は、訓練を受けた特定の警察官がより簡便な「ダイバースーツ」と呼ばれる装甲防護服を着用し戦う物語であって、戦闘用のアイテムそのものが異なります。
あくまで特殊繊維(アラミド繊維)を使用した防護服を装着しているのであり、ロボットのような外装装置を操縦しているわけではありません。
主人公は深町辰矛という警視庁警備部第三課「第二機動制圧隊」所属の装甲防護服装着員です。
同僚として狙撃手の富樫や同じ狙撃手の吉山恵実などがいますが、この三名で一個班を構成しています。
辰矛が所属するこの一個班が、ある突入事件で吉山は殺され、富樫は入院する羽目になってしまい、辰矛もまた異人に捕らえられてしまいます。
そこに異人たちに「黒い悪魔」と恐れられている存在があらわれ、辰矛はその悪魔に助けられるのでした。
ここでさらに、警視庁公安部外事第四課三係統括主任の芹澤孝之、さらに、大和一心会の上院議員の赤津延彦らが絡み、話は単なる異人を取り締まるアクション小説の枠を超えて広がっていくのです。
本書『グランダイヴァー』は、この「悪魔」と呼ばれた「グラン・ダイバー」の物語であり、いまだ一個の物語として完成しているとは思えません。
多分シリーズ物になるのでしょう。そうでなければ本書だけではあまりにも中途半端な物語になってしまいます。
例えば、細かな点では辰矛たち制圧隊がダイバースーツを着用する前や、グラン・ダイバーがスーツ着用の前にに飲む薬は一体何なのかなど、解決されていない謎は多く残っています。
大きくは辰矛が属することになる組織そのものの成り立ちや在りようなど、簡単にしか語られていない点も多く、物語の世界観ももう少し丁寧に構築されてしかるべきだと思うのです。
誉田哲也の壮大な物語は始まったばかりで、これから本格的に展開されるものと期待しています。