東野 圭吾

ブラック・ショーマンシリーズ

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ブラック・ショーマンと名もなき町の殺人』とは

 

本書『ブラック・ショーマンと名もなき町の殺人』は『ブラック・ショーマンシリーズ』の第一弾で、2020年11月に光文社から刊行されて、2023年11月に520頁で光文社文庫から文庫化された、長編の推理小説です。

ミステリーとしての側面はその謎解きの過程をそれなりに楽しめたものの、探偵役のキャラクターは別として、東野作品の中では普通といわざるを得ない作品でした。

 

ブラック・ショーマンと名もなき町の殺人』の簡単なあらすじ

 

故郷で父が殺害された。仕事と結婚準備を抱えたまま生家に戻った真世は、何年間も音信不通だった叔父・武史と再会する。元マジシャンの武史は警察を頼らず、自らの手で犯人を見つけるという。かつて教師だった父を殺した犯人は、教え子である真世の同級生の中にいるのか。コロナ禍に苦しむ町を舞台に、新たなヒーロー“黒い魔術師”が手品のように華麗に謎を解く長編ミステリー!(「BOOK」データベースより)

 

ブラック・ショーマンと名もなき町の殺人』の感想

 

本書『ブラック・ショーマンと名もなき町の殺人』は『ブラック・ショーマンシリーズ』の第一弾となる長編の推理小説です。

ミステリーとしては楽しく読みましたが、個人的には東野作品は社会性を持った作品の方が好みであり、この作者の作品としては普通といわざるを得ない作品でした。

ただ、探偵役の神尾武史がなかなかにユニークな人物であって、その点では読みがいのある作品でした。

 

本書の主人公は、マンションのリフォームを手掛ける部門に勤務し、同じ会社の先輩である中条健太という男性との結婚を予定している神尾真世という女性です。

真世は郷里での中学時代の同窓会を間近にしていたのですが、突然、自分が通った中学校の教師でもあった父親の神尾英一が殺されたという連絡が入ります。

急いで郷里へ戻り警察に話を聞いていると、そこに真世の伯父の神尾武史という男が現れるのでした。

 

この神尾武史は、真世の父親英一の弟であり、かつてはサムライ・ゼンという名前でアメリカでかなり人気を博したマジシャンだった人物です。

今は「トラップハンド」というバーを営んでいる人物ですが、何故かアメリカでマジシャンとして活躍していた時代のことは語りたがりません。

しかし、彼の手先の器用さと、話術の巧みさはさすがのものがあり、その技を駆使して探偵役を果たしていくのです。

 

登場人物を見ると、中学の同級生としてまず何かと真世と連絡を取っていた池永(旧姓 本間)桃子がいて、歳上ではありますがやはり英一の教え子でもある桃子の夫の池永良輔がいます。

次いで、倒れていた英一の発見者でもある酒屋を営む原口浩平、IT企業経営者の杉下快斗、地方銀行の三つ葉銀行に勤務する牧原悟、漫画「幻脳ラビリンス」の作者針宮克樹、「幻脳ラビリンス」を利用しての町おこしを狙う柏木広大、釘宮のマネージャー的立場で動く九重梨々香他の人物が真世の中学の同級生として登場してきます。

 

謎解き自体は本格派推理小説に対する私の印象と変わらずに特別なものはありませんでしたが、探偵役である神尾武史のキャラクターこそが本シリーズの醍醐味だと思います。

姪っ子の真世にまで自分の飲食代や宿泊代を負担させ、挙句の果てには警察にまで負担させようとするそのキャラは独特です。

それでいてマジシャンとしての腕は超一流であり、スマホを盗み取り履歴を見て元に戻したり、相手がスマホで電話を掛けるその姿を見て押した電話番号を読み取るなど、器用という言葉では足らないほどの能力をも有しているのです。

ここで、主人公神尾真世の父親が殺され、さらに事件の関係者が神尾真世のかつての同級生たち、探偵役が主人公真世の叔父というという舞台が設けられることになります。

 

本『ブラック・ショーマンシリーズ』の項でも書きましたが、マジシャンが登場するミステリーとして忘れてならないのは泡坂妻夫という作家さんです。

中でも『11枚のとらんぷ』という作品は正直あまり覚えてはいないのですが、マジックを駆使した内容に驚いた記憶が残っている作品です。

 

本シリーズは続編の『ブラック・ショーマンと覚醒する女たち』も出版されています。

本書と異なり短編集ですが、やはりホームズのような活躍を見せる神尾武史がその魅力を発揮しています。

個人的には短編集である続編よりも本書の方が好みではあったかもしれません。

[投稿日]2024年07月28日  [最終更新日]2024年7月28日

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