東野 圭吾

ブラック・ショーマンシリーズ

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ブラック・ショーマンと覚醒する女たち』とは

 

本書『ブラック・ショーマンと覚醒する女たち』は『ブラック・ショーマンシリーズ』の第二弾で、2024年1月に352頁のソフトカバーで光文社から刊行された短編推理小説集です。

あるマジシャンを探偵役とするミステリーで、若干の心残りはあるものの心地よく楽しむことができた短編小説集です。

 

ブラック・ショーマンと覚醒する女たち』の簡単なあらすじ

 

亡き夫から莫大な遺産を相続した女性の前に絶縁したはずの兄が現れ、「あんたは偽者だ」といいだす。女性は一笑に付すが、一部始終を聞いていた元マジシャンのマスターは驚くべき謎解きを披露する。果たして嘘をついているのはどちらなのかー。謎に包まれたバー『トラップハンド』のマスターと、彼の華麗なる魔術によって変貌を遂げていく女性たちの物語。(「BOOK」データベースより)

目次
トラップハンド | リノベの女 | マボロシの女 | 相続人を宿す女 | 続・リノベの女 | 査定する女

 

ブラック・ショーマンと覚醒する女たち』の感想

 

本書『ブラック・ショーマンと覚醒する女たち』は『ブラック・ショーマンシリーズ』の第二弾となる、あるマジシャンを探偵役とする、小気味いい短編小説が収納された作品集です。

 

本書の感想を一言で言えば、長編の方が面白いという感想になるのでしょうか。本シリーズ第一弾の『ブラック・ショーマンと名もなき町の殺人』のような長編作品の方が東野圭吾の良さを示すことができると思うのです。

また、東野圭吾の社会派の一面が前面に出た作品の方が私の好みには合致しているとも思います。

この点、前作は長編ではあるものの私の好みである社会派作品ではなく普通の謎解きメインの作品であり、その点は少々残念でした。

さらに本書に関して言うと、本書を先に読んだためか探偵役の神尾武史の背景描写や武史と神尾真世との関係性についての叙述が少なく、物語の背景描写が薄いと感じました。

ただ、本書の主役の神尾武史や神尾真世に関してはシリーズ第一弾の前作でその人となりや関係性などについては詳しく述べてあるため、第二弾である本書ではどうしても物語の背景が薄く感じるとは言えるでしょう。

 

とはいえ、さすがに東野作品であり楽しく読ませてもらったというのも事実です

本書が普通の推理小説と異なるところは、提供される謎が殺人などの事件ではないところです。本書で提供される謎解きはあのシャーロックホームズが見せたような、ある人の人となりや行動などからその場でその人の言動の嘘を見抜くことです。

 

本書の冒頭の「トラップハンド」は、ある男の言動からその男の嘘を見抜き、ある女性が毒牙にかかろうとするところを助ける話です。

この話は22頁と実に短く、それでいてこの女性が本書における他の話でも顔を見せたり、物語に関わってきたりとそれなりの役割を担った人物として登場しています。

 

次の「リノベの女」は、夫の財産を相続した上松和美は、生き別れになっていたという和美の兄の上松孝吉から偽者との指摘をうけます。しかし、ことの真相は意外なものでした。

この話は続編があり、それが「続・リノベの女」であって、再び隠された真相が明らかになるとき、そこに意外な事実が隠されていたのです。

 

マボロシの女」は、不慮の事故で亡くなった不倫関係にあった男のことを忘れることができないでいた火野柚希を何とか救いたいと思う親友の山本弥生との話ですが、少々無理があるのではないかと感じる話でもありました。

 

相続人を宿す女」は、ある老夫婦が息子の富永遥人が急死したため遥人が住んでいた部屋のリフォームを計画したのですが、リフォームを請負った真世に突然に工事の停止を言ってきたという話です。

遥人の死の直前に離婚した妻がお腹にいる子が相続する権利があると言ってきたためのことでしたが、一見不合理な主張の裏には読む者の胸を打つ話が隠されていました。

 

査定する女」は、「トラップハンド」やそのほかの話に少しずつ顔を見せていた陣内美奈という女性の話です。

それまで結婚相手の査定を武史に頼んでいたのですが、ついに栗塚正章という理想の男性と巡り合うのでした。しかし、この話も若干無理筋を感じた話でもありました。

 

何となく違和感を感じた話もありましたが、全体的には心地よく楽しむことができた作品集でした。

[投稿日]2024年07月28日  [最終更新日]2024年7月28日

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