『クスノキの女神』とは
本書『クスノキの女神』は『クスノキ神シリーズ』の第二弾で、2024年5月に実業之日本社から320頁のソフトカバーで刊行された、長編のエンタメ小説です。
若干都合がよすぎるという印象を持ったことは否めないものの、それでも感動的な物語展開はさすがなものでした。
『クスノキの女神』の簡単なあらすじ
神社に詩集を置かせてくれと頼んできた女子高生の佑紀奈には、玲斗だけが知る重大な秘密があった。
一方、認知症カフェで玲斗が出会った記憶障害のある少年・元哉は、佑紀奈の詩集を見てインスピレーションを感じる。
玲斗が二人を出会わせたところ瞬く間に意気投合し、思いがけないプランが立ち上がる。
不思議な力を持つクスノキと、その番人の元を訪れる人々が織りなす物語。
待望のシリーズ第二弾!(内容紹介(出版社より))
『クスノキの女神』について
本書『クスノキの女神』は『クスノキ神シリーズ』の第二弾です。
若干都合がよすぎるという印象を持ったことは否めないものの、それでも感動的な物語展開はさすがなものでした。
ある日、玲斗のいる神社に一人の女子高生が詩集を置かせて欲しいと言ってきました。
一方、軽度認知障害を患っている玲斗の叔母の柳澤千舟が通う認知症カフェで、記憶障害を持った絵を描く才能のある少年と出会うのでした。
本書は、主人公である直井玲斗の叔母である軽度認知障害という病を持つ柳澤千舟を一方におき、他方に記憶障害のある針生元哉という少年をおいて展開される物語です。
自分の生活の履歴の一部が欠け落ちてしまうことの恐ろしさは想像がつきますが、現実にそうした事態に陥った場合の衝撃はたぶん想像を超えたところにあると思います。
歳を重ねてある程度の覚悟ができているなか、少しずつそうした事態に直面していく場合も怖いのですが、まだ若いうちに昨日の記憶が抜け落ちるなどの事態は想像すらつかないと思います。
そうした、それなりの歳をとった中での初期の認知症に直面した千舟と、病のために一晩眠った時に前日の記憶を維持できない少年とを物語の中心においた本書は様々なことを考えさせられます。
そこに、玲斗のいる月郷神社に詩集を置かせてほしいと頼んできた早川佑紀奈という高校生が絡み、佑紀奈と元哉という二人の共同作業の進捗を見守るという形でこの物語は進みます。
ちなみに、ここでの二人の共同作業が佑紀奈の文章に元哉が絵を添えるという絵本の作成作業ですが、ここでの絵本が現実に出版されることになりました。
それが、本書の作者である東野圭吾の文章に、絵本作家の吉田瑠美(よしだるみ)氏が絵を担当した『少年とクスノキ』という絵本です。
玲斗が中心になって、若い二人の夢をかなえさせる話を縦軸に、玲斗の叔母の千舟の認知症に対する態度を横軸に置いた物語だといえるかもしれません。
そして、玲斗は「記憶」という一点で共通する、軽度認知障害という病を持っている千舟と、記憶を一日しか維持することが出いない病を抱えている元哉のそれぞれの生き方を見つめています。
東野圭吾の描き出すファンタジー系統のシリーズ作品であり、やはり東野圭吾の感動的な物語である『ナミヤ雑貨店の奇蹟』の系統に並ぶ作品だと言えます。
