『真夏の方程式』とは
本書『真夏の方程式』は『ガリレオシリーズ』の第六弾で、2011年6月に文藝春秋からハードカバーで刊行され、2013年5月に文春文庫から463頁の文庫として出版された、長編の推理小説です。
長編としてはシリーズ第三作目であり、環境保護をテーマにした、相変わらずの面白さを持った作品でした。
『真夏の方程式』の簡単なあらすじ
夏休みを玻璃ヶ浦にある伯母一家経営の旅館で過ごすことになった少年・恭平。一方、仕事で訪れた湯川も、その宿に宿泊することになった。翌朝、もう1人の宿泊客が死体で見つかった。その客は元刑事で、かつて玻璃ヶ浦に縁のある男を逮捕したことがあったという。これは事故か、殺人か。湯川が気づいてしまった真相とは―。(「BOOK」データベースより)
『真夏の方程式』の感想
本書『真夏の方程式』は、ガリレオシリーズの第六弾となる作品で、たまたま列車の中で一緒になった少年の恭平を中心にしたミステリー作品です。
やはり、さすが東野圭吾という作品でした。この作家さんにたまに見られる少々強引な設定という感じもあったけれど、でも、やはりこの人の作品は一級の面白さがあります。
海の美しい玻璃ヶ浦での開発の話が持ち上がります。学者としての意見を求められ現場に参加する湯川学でしたが、行きの列車で偶然一緒になった恭平少年と同じ宿に泊まることにしました。
ところが、翌日同じ宿に泊まり合わせた宿泊客が死体で見つかります。事故として片付けられようとした事件でしたが、亡くなった人物が元警官であることが判明し、身元確認のために来る夫人に同行してきた警視庁の管理官はそこに事件性を見出すのでした。
恭平と湯川が泊まったこの宿は、恭平の伯母一家の経営する旅館で、玻璃ヶ浦自体がさびれていくのに伴い老朽化している旅館でした。
その旅館で、恭平少年に湯川が物理学の面白さ、学問の面白さを少しずつ説いていき、恭平が、わずかずつ湯川に心を開いて行く過程が描写されています。
この二人の関係が謎解きとは異なる本書のもう一つの見どころになっていて、事件の背景のせつなさに一つの救いを与えているようです。
このシリーズにしては珍しく、湯川の方から事件の背景の調査に乗り出します。
その折に何時ものことながら草薙刑事との掛け合いもあるのですが、今回は草薙の方からの捜査依頼ではないので、この二人の会話も草薙の報告という形で終始します。
何となくこのシリーズの感じがこれまでと異なるのは、やはり、本作品が恭平少年を軸に据えた描写になっているからのようです。
結論にしても、恭平少年の存在があればこそ、としか考えられず、通常であれば違った結論になるのではないかと思われます。
この作家の作品はその殆どを読んでいるのですが、いかにも近年の作品らしく、人間ドラマを中心に据えた読み応えのある作品に仕上がっています。
結論のあり方に関しては異論も少なからずあるようですが、小説としての面白さはさすがのものです。
いつものことながら、それなりの水準の作品を発表し続けるその力量にはただ脱帽するばかりです。
ちなみに、本書は『容疑者Xの献身』に次ぐ、劇場版ガリレオシリーズの第二弾として、もちろん福山雅治主演で映画化されています。