過疎にあえぐ地方都市ならではの事件、クールでタフな女探偵。これが現代日本だ!(「BOOK」データベースより)
椎名留美という女性を主人公とする、六編からなる連作短編小説集です。ハードボイルドミステリーと言うべきなのかもしれません。
本書の魅力は主人公椎名留美のキャラクターに尽きると言っても過言ではないと思います。本書全編で山形弁での会話が弾み、一見のどかな雰囲気を醸し出しています。
主人公椎名留美に関して明らかになっている事情は、一人娘がいるシングルマザーであり、刑事であった過去を持ち、今は探偵業を開業しているもののその実態は便利屋と化している、ことくらいでしょうか。
性格は向こう見ずであって、必要となれば暴力団の事務所であろうと乗り込んでいくだけの度胸をも持っています。とはいえ、そのような際には、逸平という元不良や個人的な警察との繋がりを利用した保険をかけておくことも忘れない慎重さも持ちあわせているのです。
こうしたキャラクターの主人公が、あるいは警察署長の依頼でさくらんぼ窃盗の犯人を追いかけ(第一話「紅い宝石」)、あるいは奥州義誠会という暴力団の幹部からのさらわれたデリヘル嬢を探して欲しいという依頼を受け(第三話「白い崩壊」)、また元クラブのママである一人の老婆の頼みも引き受けています(第四話「青い育成」)。
そして、彼女を助ける人物として東根警察署の署長の有木や(第一話「紅い宝石」)、以後の話の中で留美のボディーガード的な位置を占めることになる元不良の逸平(第二話「昏い追跡」)、裏社会への繋がりを手助けする存在となる暴力団の幹部石上研などの多彩なキャラクターが登場しています。
また、彼女が関わる事件も上記のさくらんぼ窃盗やデリヘル嬢捜索などの他、第二話のスーパーの保安員として万引き犯の実体、第五話「黒い夜会」でのホスト社会の裏事情、第六話「苦い制裁」でのストーカー事件の実態などと、裏社会の闇に連なる場合が多いのです。
結局は、彼女の仕事もそこで取りこまれてつつある人たちの救済という意味合いをも持つことになるのです。こうして本書は 東直己の『探偵・畝原シリーズ』などを思い起こさせる、ローカルなハードボイルドとして仕上がっています。ただ、本書はこのシリーズのようには重くはなく、もっと読みやすい物語となっています。
また、常に社会的なテーマを抱えながらも読みやすいハードボイルドタッチの物語としては、 石田衣良の『池袋ウエストゲートパークシリーズ』があります。主人公は池袋のトラブルシューターであるタカシという男ですが、池袋のカラーギャングのキングと呼ばれるタカシと共にトピカルなテーマを解決していく、読みやすい物語です。
ただ、本書『探偵は女手ひとつ』に比べると、『池袋ウエストゲートパークシリーズ』は舞台背景だけではなく、主人公自身のもつ雰囲気もかなりスマートであり、本書のローカルな印象とは異なります。
『探偵は女手ひとつ』は、2017年11月現在ではまだ続編は出ていませんが、このキャラクターは是非また読みたいと思うキャラクタ―であり、続編を期待したい一冊でもありました。