娘の病を治したお礼にと、登に未解決事件の情報を教えてくれた男が牢の中で殺された。大胆な殺しの後、ゆうゆうと出牢した犯人を追い、登は江戸の町を駆ける―。家では肩身の狭い居候だが、悪事には敢然と立ち向かう若き牢医師・立花登が、得意の柔術と推理で事件を解き明かす。大人気時代連作第三弾。(「BOOK」データベースより)
獄医立花登手控えシリーズの第三巻です。
登が江戸に出てきた頃は、おあきらと共に遊び回っていたおちえでしたが、第一巻の最終話「牢破り」で、立花登を利用するために、当時の遊び相手だった新助とその職人の仲間に攫われた経験などから次第に大人しく、娘らしくなっていくおちえでした。
前巻でも次第に登に優しくなっていくおちえの様子が描かれていたのですが、本巻ではさらに登と共にいることに嬉しさを感じるようになっています。
登にしても自分の将来を考えるとき、おちえと共にいることを考えるようになているのでした。
いつもの通りに牢内の囚人に絡んだ事件を解決しながらも、自分自身、医者としてもこのままでいいものなのか考える登です。
以下、各話のあらすじです。
秋風の女
登は、女牢の牢名主のおよねから、下男の佐七が新入りのおきぬという女にいいように使われている話を聞いた。下男の万平から言い聞かせるが、佐七は、あの人はかわいそうな女で夫婦約束もしているといって聞く耳を持たない。
ある日、おきぬと話し込んだあとで家に帰る佐七つけると、背の高い男と現れた佐七が殺されそうになるのだった。
これまでは、田舎者の青年が色々な側面を持つ女の不可思議さに翻弄される姿もありましたが、さすがにこの頃の登は女心の不思議さをそのままに受けれているようです。
白い骨
ケチなかっぱらいの辰平は独り身の自由さを語っていたが、実は自分には嬶ァも子供もいると言いだした。登が辰平から聞いた住まいに行ってみると、そこには辰平の女房がいて、牢を出た辰平を引き取るというのだった。しかし、辰平の牢仲間だった男から、その辰平が牢を出てしばらくして殺されたという話を聞くのだった。
登の柔術の腕の冴えはこれまでも本シリーズの特徴としてしばしばその腕前が描かれてきましたが、この話ではいくら登が達人だとは言え、無謀に過ぎる気がしないでもありません。ただ、それが若さというものでしょうか。
みな殺し
芳平という囚人が死んだ。本当は不審死であったものを役人たちの手前自然死だとして処理をする。ところが、突然、岡っ引きの藤吉が登のもとを訪れ、芳平は本当に自然死だったのかと聞いてきた。この頃変死人が続いていたが、むささびの七という男に殺されたというのだ。
まさに捕物帳としての話でした。ひとりの囚人の死から、第二巻の「押し込み」でわたり合ったも出てきた極悪な盗人へとたどり着く様子が描かれています。
片割れ
その日、叔父の家に一人でいる登のもとへ刀による怪我の治療にやってきた男は稀にみる悪相の持主だった。数日後、押し込みに入り怪我をした蓑吉という盗人が奉行所から送られてきた。話を聞くと、例の悪相の男の怪我が蓑吉の仲間と符合する。蓑吉に悪相の男についてカマをかけると蓑吉は登の首を絞めようとするのだった。
悪相の男の治療を手伝ってもらったおちえの身を案じる登です。
奈落のおあき
しばらくぶりに会ったおあきは化粧が濃く、あくどいと言っていいほどだった。牢にいる伊勢蔵という男に用があるというのだ。その伊勢蔵は日雇いだというのだが、まったく日焼けをしていないのだ。
その牢にいた嘉吉が、登が蓑吉の子供の治療をしたお礼にと、黒雲の銀次という盗人の情報をしらせようとして殺されてしまう。
おちえの遊び仲間だったおあきが年頃になり、ワルの女となっています。盗人の情婦から人殺しの情婦へと落ちていったおあきのすすり泣きが、二度を這い上がれない奈落の底から聞こえてくる嘆きの声のように聞こえ
るのでした。
影法師
囲われ者だった母親の旦那の加賀屋伝助を刺して牢に入っていたおちせは、杉蔵という職人の想いを受けとめることができずにいた。加賀屋が母親を殺したと思っているおちせは、牢に入った身の自分は杉蔵のもとへは行けないというのだ。しかし、その杉蔵はおちせの放免の日に迎えに来ていなかった。