『聖刻 警視庁総合支援課0』とは
本書『聖刻 警視庁総合支援課0』は、2024年11月に464頁の文庫本書下ろしとして出版された長編の警察小説です。
『警視庁総合支援課シリーズ』のパート0の位置にある作品で、『総合支援課シリーズ』の新しい主人公となる柿谷晶の捜査一課時代を描いた作品です。
『聖刻 警視庁総合支援課0』の簡単なあらすじ
大物司会者の息子が元恋人を殺害。捜査一課の柿谷晶が取り調べに臨むが、被疑者は黙秘し、家族はネットでの誹謗中傷に悩まされる。自らの苦い記憶が甦る中、晶は犯罪被害者支援課の村野らと捜査を続けるが、事態は最悪の方向へー。加害者と被害者の狭間で苦悩する女性刑事を描く、「総合支援課」誕生の物語!(「BOOK」データベースより)
『聖刻 警視庁総合支援課0』の感想
本書『聖刻 警視庁総合支援課0』は、『警視庁総合支援課シリーズ』のパート0に位置づけられる作品です。
本書が属する『警視庁総合支援課シリーズ』は、『警視庁犯罪被害者支援課シリーズ』のシーズン2にあたるシリーズですが、本書はその両シリーズを繋ぐ立場にある作品です。
つまり、新しく主人公となる柿谷晶の捜査一課時代が描かれていて、晶が『総合支援課シリーズ』シリーズの主人公に収まるまでの事件を描いてあるのです。
大物司会者の前尾昭彦の息子前尾弘大が、二年ほど前まで交際していたかつての恋人である古島萌を殺害したとして出頭してきました。しかし、弘大は何故かその動機を語ろうとはしません。
晶は昭彦のマネージャーの五十嵐から、前尾の家族は昭彦、昭彦の妻の美紀や妹でモデルの由衣ら皆がSNSでかなり叩かれ、炎上している事実を知らされます。
そのうちに、前尾の家が放火され、加害者の家族は一転、犯罪被害者の家族となり、総合支援課が乗り出す事態となるのでした。
本書の舞台となる『総合支援課』という部署は、もとは「犯罪被害者支援課」と言っていたものが改称されたものです。
というのも、これまで犯罪者の権利はそれなりに考慮されていたのですが、犯罪に巻き込まれてしまった人たちへの支援は置き去りにされてきました。
しかし、メディアや、更にはネット社会の発達に伴うSNS上では、加害者の家族が誹謗中傷の対象になり、物理的な被害に遭うことも少なからず起きてきました。
そこで著者の堂場瞬一 ) によると、支援課は、シーズン1のように「被害者」を支援するだけでなく、加害者家族も含め、犯罪に巻き込まれてしまった人全てをフォローする部署に生まれ変わる必要があった、というのです。
同時に、物語の主役も村野秋生から女性へと変更することとし、それが柿谷晶だったというわけです。
そのため、晶は本書ではまだ警視庁捜査一課に属しています。ただ、彼女には特別に刑事部総務課の理事官の三浦亮子理事官から「加害者家族をケアして」という指示を受けます。
三浦理事官は、加害者のケアという指示を「刑事総務課」の人から受けるのは筋違いではないかという晶の言葉に、「でもあなたなら、加害者家族の痛みも分かるでしょう」との言葉を返すのです。
その少し前には、晶が柿谷道郎という人物に対して、私たちの苦しみを少しでも解消するために、何らかの説明をする義務がある、という趣旨の届くはずもない手紙を書く場面があります。
こうした読者には明確にされないある理由から、晶は特別の任務を授けられるのであり、これが後の「総合支援課」への布石となっていくことがわかるのです。
犯罪支援から総合支援へと名称は変化し、主人公も変わるにしても、物語の根底にある犯罪により被害を被った人たちをそのままにはしておけない、という制度の趣旨は変わりません。
柿谷晶の背後には村野秋生を始めとして松木優里などのかつての犯罪被害者支援課の課員たちが控えていて、ただ救うべき対象が広がっただけです。
肉体的のみならず、精神的に疲弊しがちな犯罪に巻き込まれた人たちを支援すべく身を削る課員たちの活躍は、単なる警察小説の域を超えて心に迫ってきます。
かなり読み応えのある作品ですが、私は惹きこまれて読み進めることになりました。面白い作品でした。