『遊園地ぐるぐるめ』とは
本書『遊園地ぐるぐるめ』は、2025年3月にポプラ社から223頁のハードカバーで刊行された連作短編小説集です。
ミニチュア写真から始まり、ミニチュア写真で終わる作品集で、物語の最後に待つのはどんな写真なのかという楽しみも待つ、まさに遊園地のような作品集でした。
『遊園地ぐるぐるめ』の簡単なあらすじ
とある町にある『遊園地ぐるぐるめ』。訪れた6人のお客さんと、そしてー。日常をちょっと一休み。幸せと満足感に溢れた読書体験が、あなたをお待ちしております。『木曜日にはココアを』『人魚が逃げた』など、青山美智子さん作品の装丁を数多く手掛ける田中達也さんのアート作品。今回は「田中さんの作品を見て(各章の扉のアート)、青山さんが物語を執筆。その物語を読んで、田中さんがさらに作品を作成(各章の終わりのアート)」という、最後の1ページまでワクワクが詰まった一冊です。(「BOOK」データベースより)
『遊園地ぐるぐるめ』の感想
本書『遊園地ぐるぐるめ』は、ミニチュア写真家の田中達也氏の作品がちりばめられた、まさに遊園地のような連作短編小説でした。
「田中さんの作品を見て青山さんが物語を執筆し、その物語を読んで田中さんがさらにアートを作成する」という惹句そのままにミニチュア写真と文章が見事にコラボしています。
つい先日、といっても今年の二月に著者青山美智子の『人魚が逃げた』という作品を読んだばかりですが、また読むことになりました。
相変わらずに心温まる物語が詰め込まれている作品集なのですが、約三か月弱という間隔で読むには私には優しすぎる作品だったようです。
どうにも刺激が無さすぎて、本書のあら捜しというか、不満点を探すような読書になってしまいました。
それぞれの物語は実によく練り上げられているとは思うのですが、ご都合主義的に過ぎるだろう、などと思ってしまったのです。
また、私がこの作者の作品にはまったきっかけとなった『お探し物は図書室まで』から本書『遊園地ぐるぐるめ』に至るまで、物語の組み立てが皆同じというのも気になるところです。
それぞれの短編は各作品集ごとに世界観を同じくし、ある物語の登場人物がほかの物語でも通行人や脇役として登場したりします。
どの作品も作品全体を通してのキーマン的な存在がいて、各短編の主人公のいろいろな悩みや問題を解決してくれる、という構造になっているのです。
ただ、そのことがいけないとか言っているわけではなく、そのパターン自体はこの作者の一つの形としてあって、楽しく読むことができます。
ただ実に個人的な好みとして、私が読むことが多い物語はハードボイルドやアクション満載の刺激的なエンタメ作品、若しくは心に沁みる人情味豊かな作品などですから、拒否感が出てきているのでしょう。
つまり、青山美智子のこれまでの作品は毒が全くないために物足りなくなっていると思われるのです。
普段、人間性を踏みにじられたり、不条理な世界に対峙する主人公を描いた作品を読むことが多いので、その合間に読むこの作者の作品は、希望を見出す点ではいいのですが、都合がよすぎる印象もあって物足りないのでしょう。
とはいえ、本書『遊園地ぐるぐるめ』のそれぞれの物語ではちょっとしたトリビア的な知識が示してあったり、なにより同じ出来事が視点を変えれば異なる意味になって未来へと繋がるなどの楽しみもあります。
タイトルの「ぐるぐるめ」という言葉にもユニークな意味を持たせてあり、一つの仕掛けといえるでしょう。
また、本書は青山美智子のこれまでの作品とは異なり、少しですが一つの物語の長さも短く、童話風だという印象でもあります。
それは、田中達也氏のミニチュア写真との対話風のつくりということもあるのかもしれませんし、そのために簡潔に述べた結果なのかもしれません。
以上の点とは矛盾するようでもありますが、個人的には物足りなさを感じた作品ではあるものの、田中達也氏の見事なミニチュア写真とのコラボのほかに、細かな仕掛けなどもあり、それなりに楽しめた作品でもありました。