遙か未来、銀河帝国の崩壊によって地球に帰還することを余儀なくされた人類は、誕生・死さえも完全管理する驚異の都市ダイアスパーを建造、安住の地と定めた。住民は都市の外に出ることを極度に恐れていたが、ただひとりアルヴィンだけは、未知の世界への憧れを抱きつづけていた。そして、ついに彼が都市の外へ、真実を求める扉を開いたとき、世界は…。巨匠が遺した思弁系SFの傑作、待望の完全新訳版。(「BOOK」データベースより)
クラークの作品の中でも『幼年期の終わり』と並ぶ名作と言われる長編のSF小説です。
銀河帝国の崩壊の後、人類は地球の片すみにコンピュータで管理されたユートピアであるドームを作り暮らしていた。全てデータ化された人類は、数万年の間を置いて再構成されるだけの存在として、10億年もの間をその中で生活していたのだ。
ある日、ダイアスパーと名付けられたそのドームの外に出たい、という若者が現れた。異端児であるその子はダイアスパーの外に出ることに成功し、別な都市リスに行きつく。意思の能力を発達させたその都市では、現在の人間と同じデータ化されていない人間が暮らしていた。
本書は主人公の少年アルヴィンの成長譚としての側面も持っているようです。しかし、それだけでなく、単なる享楽的なユートピアではないダイアスパーという施設、及びその中で暮らす人間社会の描写に素晴らしいものがあります。
加えて、リスという都市を対置し、ダイアスパーの存在を浮かび上がらせています。更に、リスから今度は宇宙へと冒険は広がり、単なる成長譚としての物語を越えた考察が示されるのです。
SFの古典と呼ばれている本です。そのスケールの壮大さは『幼年期の終わり』に勝るとも劣りませんし、同様にSFのセンス・オブ・ワンダーを実感させてくれた本です。
『幼年期の終わり』や本書『都市と星』のように心を揺さぶられる程の衝撃を受ける作品はそうはありません。
元々は「銀河帝国の崩壊」という題名で出版されていた作品に本人が不満を覚え、書きなおした作品が本書だそうです。しかし、「銀河帝国の崩壊」の方が主人公がよく描けているとして「銀河帝国の崩壊」の方が面白いという方も少なからずおられるようです。
なお、本書『都市と星〔新訳版〕』のリンクイメージは酒井昭伸氏の新訳版へのものです。ハヤカワ文庫版(山高昭訳)もありますが、古書になりそうです。また、ハヤカワ文庫版(福島正実訳)もあります。