新宿東口で街頭演説中の総理大臣を標的としたテロが発生。大混乱の中、伊崎基子らSAT隊員が総理の身柄を確保し、警察上層部は安堵する。だがそれは、さらなる悪夢の始まりに過ぎなかった。“新世界秩序”を唱えるミヤジと象徴の如く佇むジウ。彼らの狙いは何なのか?そして美咲と基子は―!?シリーズ完結篇。(「BOOK」データベースより)
前作の最後、城西信用金庫西大井支店への立て籠もり事件の現場の映像の中でジウの姿を見かけ、駆けつけた東警部補らの目の前で西大井支店は爆破され、特殊班一係長羽野警部は炎の中に消えてしまいます。
SATはこの事件で受けた被害の補充のため、伊崎基子巡査部長を新たな隊員で構成されるSAT制圧一班の新班長に抜擢するのです。
一方、前巻での新宿でジウを探す伊崎基子に対する目撃証言や美咲への匿名の手紙などから伊崎への疑惑が膨らむ中、東警部補らは警察上層部への疑いを抱くに至ります。
ところが、そうした事柄を一掃してしまう大事件、すなわち、新宿が封鎖され、近くで演説をしていた総理大臣が拉致されるという事件が発生します。
そして伊崎基子を心配する美咲は、SAT第一小隊隊長の小野警部補と共に新宿へと潜入するのでした。
本巻に至っては、新宿封鎖という荒唐無稽という言葉のさらにその上を行くような事態が起きてしまいます。“新世界秩序”という正体不明の団体が傍若無人の限りを尽くし、新宿の街は一瞬にして暴徒の町へと化してしまうのです。
ここまで行くと、現実とのあまりの乖離に物語も破綻を来しそうなものですが、誉田哲也という作家はそうした事態をも見事にまとめ上げてしまいます。
確かに、新宿封鎖という大事件ですから、ミヤジを中心とする一団が以前から計画を練っており、決して一夜にして決行したわけではないことは分かります。
また、封鎖された新宿の街への単純な突入作戦が不可能であることなども物語の中で説明されており、新宿封鎖がそれなりに効いていることもわかります。
それでもなお、やはり新宿の封鎖という事件は簡単には受け入れることはできない事件です。
ところが、物語を読み進めるうちは少々難ありと思いながらも、そのテンポの良さに引っ張られ、次々に展開するストーリーに引き込まれてしまうのです。
勿論、それはこうした物語が好きだという私の好みによるものでしょうが、やはり誉田哲也という作家の物語の構成力をも含めた意味での文章力によるところが大きいのだと思います。
本三部作を読み終えてみると、最終的にはジウの正体は判明はするものの、それまでこの物語を引っ張ってきた謎としてはあっけなく感じます。
また、一方のヒロインの伊崎基子のその時ごとの立ち位置についても、彼女の行動からすると少々軽く、また簡単に過ぎるような印象もあるにはあります。
しかし、それでもなお、こうした荒唐無稽な割に、その世界観の中ではきちんと構成され、各種疑問に対する一応の答えが準備してある作品は好感が持てるし、本作品はその期待に十分に応えうる世界観を持った作品だと思うのです。