新聞社の支局長として20年ぶりに地元に戻ってきた記者の福良孝嗣は、着任早々、殺人事件を取材することになる。被害者は前市長の息子・野本で、後頭部を2発、銃で撃たれるという残酷な手口で殺されていた。一方、高校の陸上部で福良とリレーのメンバーを組んでいた県警捜査一課の芹沢拓も同じ事件を追っていた。捜査が難航するなか、今度は市職員OBの諸岡が同じ手口で殺される。やがて福良と芹沢の同級生だった小関早紀の父親が、20年前に市長の特命で地元大学の移転引き止め役を務め、その後自殺していたことがわかる。早紀は地元を逃げるように去り、行方不明になっていた…。(「BOOK」データベースより)
本書には記者である福良孝嗣と刑事である芹沢拓という二人の探偵役がいます。彼らは高校時代の同級生であり、扱う事件の根底に二十年前の高校時代の一夜が絡むことから協力関係を築くのです。
この作家の中では異色の雰囲気を持った作品でした。というのも、この作者の描く推理小説は作品の情景描写等の書き込みも緻密で、大部分の作品は、どちらかというとハードボイルドタッチの孤高な男を主人公に据えたものが多かったように思います。
しかし、本作品は作者自身も「本作は警察小説ではありますが、一方で青春小説でもあります。」と言っているように、探偵役の二人の高校時代からの友情に対する試金石のような側面もあってか、いつもなら登場人物の書き込みなどが緻密に為され、物語のリアリティを増しているのに、今回はその緻密さをあまり感じませんでした。
この作家には推理小説作家とは別の貌があります。それはスポーツ小説の書き手という貌であり、ベストセラーともなった『チーム』やラグビーを描いた『二度目のノーサイド』など、そちらでは見事な青春小説を書かれています。とくにラグビーの世界を描いた小説を私は他に知りません。作者本人が経験者ということもあるのでしょうが、推理小説の世界での男くさい物語がスポーツの世界でも描写されているのです。
ところが、本書では推理小説でありながら青春小説としての側面も持つ、という試みをされたと言われてますが、決して上手くいっているとは思えなかったのです。過去の青春時代につながるという犯罪動機の面で読者である私を納得させるものではなく、不満が残ったものと思われます。
新聞記者と警察官という、慣れ合ったり、情報の交流などはあってはいけない対立的な立場にあって、しかし青春の一時期を共有した二人の関係性を主軸に、謎解きは謎解きとしてそれなりに面白く読んだ小説でした。しかしながら、この作家の他の作品と比すとどうしても要求が大きくなってしまうのです。