『機龍警察 未亡旅団』とは
本書『機龍警察 未亡旅団』は、『機龍警察シリーズ』第四弾の長編のアクション警察小説です。
前巻まで三人の龍機兵の操縦者たちの過去が語られてきました。今回は城木貴彦理事官と由起谷志郎警部補の話です。
『機龍警察 未亡旅団』の簡単なあらすじ
チェチェン紛争で家族を失った女だけのテロ組織『黒い未亡人』が日本に潜入した。公安部と合同で捜査に当たる特捜部は、未成年による自爆テロをも辞さぬ彼女達の戦法に翻弄される。一方、特捜部の城木理事官は実の兄・宗方亮太郎議員にある疑念を抱くが、それは政界と警察全体を揺るがす悪夢につながっていた―世界のエンタテインメントに新たな地平を拓く“至近未来”警察小説、衝撃と愛憎の第4弾。(「BOOK」データベースより)
ある密売取引の現場を急襲した神奈川県警は、バイヤーである不法入国者グループを逮捕しました。
ところが、若い女性ばかりのそのバイヤーのうちの数人が包囲陣にむかって駆け出し、周りを巻き込んで自爆してしまいます。
凄惨な現場には倒壊した車両や炎上する家屋が残されたのみで、残る六人の女性の姿はどこにもありませんでした。
『機龍警察 未亡旅団』の感想
本書『機龍警察 未亡旅団』はこれまでの作品と異なり、城木貴彦理事官と由起谷志郎警部補の話が語られてはいます。
しかし、現在進行している事件、それも未成年らによる戦闘行為がメインのテーマだとの印象があります。
テロ行為そのものが許されないことは勿論なのですが、加えて「児童を徴集、あるいは誘拐して兵士に仕立て上げ」られている現実、「最も安価で効果的な戦力増加方法」だとして未成年者が戦闘員として闘っているという現実に対する問題提起がなされています。
より詳しく言うと、本書『未亡旅団』ではチェチェン紛争という現実を詳細に描写し、テロルの実行犯側の論理をも展開しています。
私達はチェチェン紛争のそうした現実を知りません。描かれている紛争の裏側がどこまで事実なのかは分かりませんが、似たようなことは現実に行われているのでしょう。
本書『未亡旅団』でテロリストとして描かれているのは、チェチェン紛争で夫や家族を失った女性たちだけからなる組織である「黒い未亡人」と呼ばれる組織で、実在の組織だそうです。
こうした組織が現実に存在し、テロ行為を行っているのが現実の世界であるということが目の前に示されるのです。
未成年者や、夫や家族を失った女性たちがテロリストとして闘っているという実際の世界の現実がテーマなので、話は重く、決して痛快活劇ではありません。
しかし、作者の筆力はそうした重みをも弾き飛ばす勢いで展開します。アクション小説としての面白さはこれまでにも増しています。
更には警察内部の反特捜部勢力である「敵」との戦いも、より熾烈でサスペンスフルなものになってきています。
付け加えますと、物語が内包している龍機兵そのものにまつわる謎や、秘密のかたまりのような沖津旬一郎特捜部長の背景についてはまだ何も語られてはいません。
まだまだ解き明かされるべき謎は山積しているのです。今後の展開が楽しみな作品です。