木内 昇

出版社勤務の後、フリーの編集者となり、その後1997年からは自ら「spotting」というインタビュー誌を主宰されているそうです。

2008年に発表された『茗荷谷の猫』が各方面で絶賛され、 2009年には早稲田大学坪内逍遥大賞奨励賞を受賞し、2011年に『漂砂のうたう』で第144回直木賞を受賞されています。

この『漂砂のうたう』では「閉塞感を感じさせる物語」を書きたかったとインタビューに答えておられますが、『地虫鳴く』は新選組の中でもこれまで名前も知らなかった隊士を描き、『櫛挽道守』では名も知らぬ職人の生きざまを描いていて、表舞台ではない光のあたらない人間を描くことが得意な作家さんなのかもしれません。

地の文ではなく、「仕草とか言葉遣い、動きの癖」で人物の内面を表したいと語っておられるように、説明的な文章ではなく陰影のある情景描写が特徴的ではないでしょうか。またリズム感があり、とても読みやすい文章です。しかし、少なくとも私の既読の範囲では決して明るい物語ではなく、ストーリーの変化に富んだエンターテインメント性の強い作品を求める人には向かないかもしれません。

ただ、未読の『笑い三年、泣き三月。』は「戦後すぐのストリップ小屋を舞台にした面白おかしい物語」らしいので、少々タッチが異なるかもしれません。

フライ,ダディ,フライ

「ゾンビーズシリーズ」の2作目です。このシリーズ自体、痛快青春小説として面白いです。

この本は中でもちょっと変わっています。以前読んだロバート・B・パーカーの「初秋」を思い出しました。「初秋」はハードボイルドで、主人公のスペンサーが仕事で知り合った、内に閉じこもる少年を自立させる物語です。

単に弱者が強者に育て上げられるというだけの一致しかないのです。それどころか、「初秋」の少年に対し、こちらは普通のサラリーマンのおじさんの再生の物語です。でも「初秋」の叙情性(?)は無いけれども本書も金城一紀のストーリー仕立てのうまさからか楽しく読むことができました。

「初秋」と本書を並べることはかなり異論があるかもしれませんが、そこは個人の感想なのでご容赦下さい。

映画篇

本書『映画篇』は、文庫本で496頁の名作映画をモチーフにした短編集です。

一編一編に未来が溢れる、読んでいて爽やかな感動がわいてくる作品集です。

 

映画篇』の簡単なあらすじ

 

「だから、俺たちは映画館の暗闇の中にいると、ワクワクするんだよ」かつて映画について語り合い、だが全く別の道を歩んだ友との再会。夫の自殺で憔悴する河本に訪れた、レンタルビデオ店での運命の出会い。最愛の夫を亡くした祖母を元気づけるべく鳥越家の孫たちが企んだ『ローマの休日』上映計画―。やさしさと勇気が宿る全5篇を収録。映画から放たれた光が、人々の胸に潜む暗闇に、希望を映し出す。著者最高の短篇集。(「BOOK」データベースより)

 

映画篇』の感想

 

本書『映画篇』も短編集です。

誰もが知っている名作映画をテーマに各短編が語られていきます。

全体の構成も素晴らしく、読み終わったら幸せな気分になるでしょう。

私が映画好きということもあるけれども、金城一紀の本を一冊だけと言われたら、「GO」よりもこの本を挙げると思います。

ちなみに、本書を原作として遠藤佳世の画でコミック全四巻が発売されています。

 

対話篇

本書『対話篇』は、文庫本で240頁の切なさに満ちた、しかし爽やかな短編集です。

 

映画篇』の簡単なあらすじ

 

「彼女が死んだのは、僕のせいなんだ」親しい人が非業の死を遂げる。そんな数奇な宿命を背負った友人が僕に語ったのは、たった一度の運命の恋の物語だった―(「恋愛小説」)。余命わずかな大学生と友人Kによる復讐劇を描いた「永遠の円環」、脳の疾病を抱えた青年と老弁護士・鳥越が、過去の記憶をたぐりながら旅をする「花」。悲しみに沈む者たちが、対話を通じて光を見出してゆく全3篇。切なくも愛溢れる、珠玉の中篇集。(「BOOK」データベースより)

 

映画篇』の感想

 

本書『対話篇』は、三篇からなる短編集です。この本も決して明るい本ではありません。というより、三篇共にどちらかと言えば暗いテーマです。

このように「暗いテーマ」と書けば語弊があるかもしえません。決して重くはありません。

それどころか、その読後感は爽やかな感動をもたらしてくれます。

絶対お勧めです。いや、読むべき本の一冊です。

GO  [DVD]

第25回日本アカデミー賞の最優秀主演男優賞をとった窪塚洋介の存在感が素晴らしかったですね。

柴咲コウも同日本アカデミー賞の最優秀助演女優賞をとっています。というより、優秀作品賞を始め総なめと言った方が良いみたいです。

GO

2000年の直木賞受賞作です。金城一紀の自伝的作品で、窪塚洋介主演で映画化もされました。

他の作品とは違い決して明るい話ではないけれども、在日韓国人である主人公の立ち位置が明確で、とても読みやすい本でした。

でも、そうした主人公の国籍に絡む問題を抜きにして、誤解を恐れずに言えば単純に青春小説として面白い作品だと思います。