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山崎 豊子 雑感

つい先日の2013年9月29日、心不全のため88歳で亡くなられました。

山崎豊子という作家は、前期作品は大阪の商売人を主人公にして、大阪という土地を描いています。その後「白い巨塔」あたりからは膨大な資料を前提とした壮大な人間ドラマを描くようになっていきました。

この作家はどの作品も本当に良く調べている、と感じられます。決して文章は上手いとはお世辞にも言えないと思うのですが、それが緻密な資料の裏付けのためでしょうか、かえって説得力を感じるから不思議です。

作品を見てみると、前期は大阪の街の風俗や商売人の生態が描かれ、登場人物が生き生きと生活しています。後期になると舞台が一段と広がりをみせ、現代社会での人間の生き方を、更にはその社会の在り方を追求しているように感じられるようになりました。

作品は、「白い巨塔」や「不毛地帯」の、魅力的だけど道を外れる主人公に対しては社会の良心とも言うべき人物が配置されたり、「沈まぬ太陽」のような実直な主人公に対しては非情な組織が敵役として配置されたりと単純化されているとも思えますが、登場人物は多岐にわたり、決して型にはまっているとは感じられません。逆に登場人物が魅力的で物語の世界に引き込まれます。

その作品の殆どは映画化若しくはテレビドラマ化されているので、作品の内容は改めて紹介するまでもないほどでしょう。

後期の作品はどれも歴史上の近年の大事件をモデルに描いているので、事実を間違えないようにする努力は相当なことだったろうと思います。ましてやその事実の上にフィクションを構築していくのですから、モデルとなった個人や団体との軋轢は深く考えるまでもないでしょう。実際、盗作騒動も結構あったと聞きます。

こうした事実を基礎にした骨太の物語を構築される作家はなかなかに現れないのではないでしょうか。前期作品も含め、骨太の人間ドラマを読んでみるのもいいと思います。

[投稿日] 2015年04月21日  [最終更新日] 2015年5月25日
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