柚月 裕子

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文藝春秋

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家庭裁判所調査官の仕事は、少年事件や離婚問題の背景を調査し、解決に導くこと。見習いの家裁調査官補は、先輩から、親しみを込めて「カンポちゃん」と呼ばれる。「カンポちゃん」の望月大地は、少年少女との面接、事件の調査、離婚調停の立ち会いと、実際に案件を担当するが、思い通りにいかずに自信を失うことばかり。それでも日々、葛藤を繰り返しながら、一人前の家裁調査官を目指す― (「BOOK」データベースより)

本書は、『孤狼の血』で第69回日本推理作家協会賞を受賞した著者の受賞後第一作だそうで、望月大地という家庭裁判所調査官補を主人公にした全五編の連作短編小説集です。

これまでの柚木裕子の作品とは少しだけ印象が異なります。社会性を帯びているという点では同じですが、主人公が未来がある若者であるということからか、登場人物に対する目線が少しだけ優しい感じがするのです。青春小説としての一面を持っているからかもしれません。

「背負う者」(十七歳 友里)
窃盗で送致されてきた友里は、家裁での大地の質問には応じようとはしない。そして、事件の背景調査で訪ねた友里の家はネットカフェであり、母の言いつけを守る友里ではあったのだった。
「抱かれる者」(十六歳 潤)
ストーカー行為に加え、カッターナイフをちらつかせていた十六歳の潤は、家裁での面接では優等生としての顔しか見せない。しかし、面接に応じようとしない父親からは、思いもかけない事実が明らかにされるのだった。
「縋る者」(二十三歳 理沙)
久しぶりに故郷に帰り、同級生の飲み会に参加する大地だったが、ほのかに恋心を抱いていた同級生の理沙に愚痴をこぼすと、理沙からは意外な言葉が返ってきた。
「責める者」(三十五歳 可南子)
この三月から家事事件へと担当が変わった調査官補である大地は、精神的な虐待を理由に妻が離婚を訴えている調停事件を受け持つことになった。しかし、夫も義理の両親への聴取でも虐待をうかがわせるものは無かった。しかし、可南子の通う病院で話を聞くと事情は全く異なる様相を見せるのだった。
「迷う者」(十歳 悠真)
大地は離婚に伴う親権を争う事件を担当することになる。十歳になる悠馬に話を聞いてもはっきりした返事を得ることはできない。ふた親の生活環境を調べると、母親である片岡朋美に男の影があった。

人間ドラマを描こうとすれば、「裁判」は格好の舞台となりえます。しかし、裁判所に行って民事でも刑事でもいいので、そこで行われている裁判を傍聴してみれば、証人尋問の場面などを除けば、テレビドラマなどで行われている裁判劇との違いに驚くことでしょう。

いっぽう、家庭裁判所は扱う事件が少年事案や家庭内の問題であり、推理小説の題材となるような派手さはありません。また、その性質上非公開で審理が行われることもあって、小説の題材とはなってこなかったのではないでしょうか。


家庭裁判所を舞台にした小説は私が読んだ範囲では思い出せません。ただ、漫画では『家栽の人』という作品がありました。本書とは異なり、主人公は家庭裁判所の裁判官です。「植物を愛するように人を育てる異色の家庭裁判所判事」として、杓子定規な法律の適用だけではない判断を下すのです。これも良い作品でした。

私は未読ですが、伊坂幸太郎氏の作品で『チルドレン』という作品が、家庭裁判所調査官を主人公とした小説だとのことでした。近いうちに読んでみようと思います。

繰り返しになりますが、家庭裁判所は推理小説の題材となるような新聞に載るような事件性のある事案こそありません。しかし、事案が事案だけに人間ドラマとして見た場合は、言葉は妥当ではないかもしれませんが、さまざまな人間模様を観察できる場所ではあります。

その点に目をつけ家庭裁判所調査官を主人公として書かれたのが本書です。

家庭裁判所調査官とは、「裁判官の指示で、少年事件や離婚問題などを調査し、裁判官が判断の参考にする資料を作成する仕事」( 著者は語る : 参照 )です。

個々の事件ごとに、対象となった事案の陰に隠された真実を探り当てるというミステリーとしての興味もありながら、隠された事実からうかがえる人間ドラマこそ、作者が描きたかったことでしょう。また、当初は家庭裁判所調査官補であった主人公望月大地が、「補」がとれ、一人前の調査官として成長していく姿が描かれています。

まさにこの作者が得意とする、また描きたい分野の物語だと思われます。シリーズ化されるかと思っていましたが、今のところ(2017年7月現在)続編は書かれていないようです。

[投稿日]2017年07月12日  [最終更新日]2017年7月12日
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若き家裁調査官「補」の物語である。その肩書きから彼は先輩たちから「カンポちゃん」と呼ばれている。少年犯罪から離婚調停まで、ありとあらゆる家族の問題に対峙し、調べ抜き、解きほぐすのが彼らの仕事だ。
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『あしたの君へ』 (柚月裕子 著) | 著者は語る - 週刊文春WEB
今回の題材は、家庭裁判所調査官。裁判官の指示で、少年事件や離婚問題などを調査し、裁判官が判断の参考にする資料を作成する仕事だ。

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