米澤 穂信

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新潮社

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「もういいんです」人を殺めた女は控訴を取り下げ、静かに刑に服したが…。鮮やかな幕切れに真の動機が浮上する表題作をはじめ、恋人との復縁を望む主人公が訪れる「死人宿」、美しき中学生姉妹による官能と戦慄の「柘榴」、ビジネスマンが最悪の状況に直面する息詰まる傑作「万灯」他、全六篇を収録。史上初めての三冠を達成したミステリー短篇集の金字塔。山本周五郎賞受賞。

読むたびに異なる顔を見せる米澤穂信という作家ですが、本作はまた、人間の闇の部分を描き出す、少し恐怖感が入った短編小説集です。

本書は第27回山本周五郎賞を受賞し、更に、ミステリが読みたい!2015年版国内編、週刊文春ミステリーベスト10・2014国内部門、このミステリーがすごい!2015年版国内編のそれぞれにおいて1位を取り、第151回直木三十五賞の候補作品となり、第12回本屋大賞では7位に入っている実績を残しています。

第一話「夜警」は、交番に配属された新人警官についての話です。何となく不安を抱かせる印象があった新人警官は、刃物を振り回し暴れる夫に対しけん銃を発射し殺害するも、自らも殺されてしまいます。しかし、その死の間際に「こんなはずじゃなかった。上手くいったのに」と繰り返していたのです。

殉職した警官について語られる話から見える人となりは、殉職した警官の姿とは重なりませんでした。そして、彼の最後の一言の裏に隠されていた真実が明かされるのです。

第二話「死人宿 」は、突然いなくなった恋人の佐和子を見つけた山奥の温泉宿での話です。その宿は『死人宿』と呼ばれるほどに年に一人か二人の死者が出る温泉宿で、自分が泊まったその晩も温泉の脱衣所に一通の遺書を見つけるのでした。

その遺書は誰が書いたものなのか、主人公は佐和子に頼まれて遺書の持ち主を探し、見つけるのですが。ホラーチックなミステリーです。

第三話「柘榴 」は、誰しも認める美貌の持ち主であるさおりの物語です。父親の反対にも拘わらず佐原成海と結婚し、夕子と月子という娘を得たさおりでしたが、佐原成海は父親の言う通りの男でした。結局は離婚ということになりますが、佐原成海は親権を渡そうとはしないのです。

ホラーと言っていいものか疑問はありますが、人間の心に潜む怖さを描き出した作品です。

第四話「万灯」は、一人の商社マンの物語です。バングラデシュで天然ガスの開発を手掛けていた井桁商事の伊丹は、開発に反対しているボイシャク村のアラムという男に手を焼いていた。ある日呼び出しを受けその村へ行くと森下という日本人が待っていたのです。

主人公は道を踏み外します。ただ、人間の心はそう単純なものではなく、自分の犯した行為の意味に押しつぶされそうになる主人公です。ホラーとは言えないと思いますが、微妙な違和感を残す物語でした。

第五話「関守」は、伊豆半島の「死を呼ぶ峠」とのうわさがある桂谷峠の物語です。主人公は取材のためににやってきましたが、そこには古びたドライブインがあるだけです。主人公はそこにいる婆さんから話を聞くしかないのでした。

ストレートなホラーで、恐怖ものの一つのパターンに乗った作品とも言えそうです。でも、真実を明らかにしていく過程の読みごたえはさすがのものがありました。

第六話「満願」は、自分が弁護士になる前に下宿をしていた鵜川家の嫁の鵜川妙子の物語です。彼女は一審では争いながらも、控訴を取り下げ、一審の下された殺人の罪で服役していたのです。

鵜川妙子は何故に控訴を取り下げたのか。ほんの小さな事実からその理由を解明していくのですが、仕掛けの名手の作品というしかない作品でした。

全般的に不気味な雰囲気を漂わせた作品が収められています。そのホラー感の濃厚な中にも丁寧な仕掛けが施された作品ばかりで、読み手の、仕掛けにはまった爽快感を感じさせてくれる見事な作品集だと言えるものでした。

こうしたトリックのうまさで言うと、近年では『傍聞き』が挙げられます。この作品を著わした 長岡弘樹という作家も、本書の米澤穂信と同様に仕掛けのうまさが光る作家であり、この作品集も心理的なトリックの上手さが光る短編集です。

また、本書のような切れのあるトリックが仕掛けられた短編集ではなく、巧妙に張り巡らされた伏線が絶妙な、まるで手品を見ているような印象の作家として、泡坂妻夫という人がいます。作品数も多数あるので一冊と絞るのは難しい上に、私が読んだのが二十年以上も前になるのではっきりとは覚えていないのですが、『乱れからくり』などは期待を裏切らない作品だと思います。右のリンクは文庫版ですが、廉価なKindle版もあります。

[投稿日]2017年11月10日  [最終更新日]2017年11月10日
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満願 米澤穂信著 心理ドラマと精緻な謎解き :日本経済新聞
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