山崎 豊子

イラスト1
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拷問、飢餓、強制労働――地獄のシベリアから生還した男。商社マンの孤独な戦いを通じて戦後史を活写する記念碑的長編。
大本営参謀・壹岐正は、終戦工作に赴いた満州でソ連軍に抑留される。酷寒のシベリアで、想像を絶する飢餓と強制労働に11年にわたって耐え抜き、ついに昭和31年、帰還を果たした。その経歴に目を付けた近畿商事の社長大門の熱心な誘いに応え、第二の人生を商社マンとして歩むことを決意。地獄の抑留生活の傷も癒えぬまま、再び「商戦」という名の新たな戦いに身を投じる。(「内容紹介」より)

 

一人の元大本営参謀をモデルに、とある商社での仕事に打ち込むことで生きる意味を見出していく男の姿を描いた、文庫本で全五巻という長さの長編小説です。

 

私の本棚に「沈黙のファイル」という本があります。共同通信社社会部が瀬島龍三元大本営参謀に焦点を当てたルポルタージュです。

ここに描かれている瀬島龍三元大本営参謀が本書「不毛地帯」の主人公壱岐正のモデルだと言われています。

 

 

本書の前半ではシベリア抑留のことが書かれていますが、私たち戦争を知らない世代にとっては想像すらできない過酷な状況です。

このシベリア抑留については様々な場面で書かれ、映像化されているのを目にしますが、この「不毛地帯」の描写ほど詳細に語られている小説は、私は読んだことはありません。

 

その抑留時代を経て、壱岐は参謀としての経験を買われ商社に勤めます。そして、自衛隊の戦闘機選定に関わりロッキード事件を思わせる仕事を成し遂げるのです。

その後、自動車、石油と重要品目に関わり世界を駆け巡ることになります。

 

会社ひいては国に対する奉公と、死んでいった仲間に対する思いとの間で煩悶する主人公がいるのですが、そうした思いは日常の経済活動の中で押しつぶされていきます。

途中、かつての軍人仲間の一人が戦没者の母体を弔うために比叡山延暦寺での千日回峰行を行う場面がありますが、ここでの会話と千日回峰行の描写は特に印象的でした。

 

30年以上も前に読んだ本なのですが映画の記憶とも合わせ、未だに鮮烈な印象を残している本です。是非読むべき本です。

ちなみに、本書は仲代達矢主演で映画化されています。この映画もいい映画でした。

 

 

また、テレビドラマ化もされており、最初は1979年に平幹二朗主演で毎日放送で放映されています。また、2009年にはフジテレビで唐沢寿明主演で放映されています。

 

[投稿日]2015年04月21日  [最終更新日]2019年6月11日
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