宇江佐 真理

イラスト1
Pocket


本所五間堀の「鳳来堂」は、父親が営んでいた古道具屋を、息子の長五郎が居酒見世として再開した“夜鳴きめし屋”。朝方までやっているから、料理茶屋や酒屋の二代目や武士、芸者など様々な人々が集まってくる。その中に、かつて長五郎と恋仲だった芸者のみさ吉もいた。彼女の息子はどうやら長五郎との間にできた子らしいが…。人と料理の温もりが胸に沁む傑作。(「BOOK」データベースより)

 

本所、深川という江戸情緒あふれる土地を舞台に繰り広げられる、一膳めし屋を舞台にした宇江佐真理らしい人情劇です。六編からなる物語ですが、これはもう長編というべきでしょう。

 

本所五間堀にある「鳳来堂」は、店主長五郎の父親の音松がやっていた古道具屋でした。しかし、音松亡き後、道具の目利きもできない息子の長五郎ではそのあとを継ぐこともできず、めしと酒を出す見世を出すことにします。

しかし、母も逝き、ひとり身となった長五郎は次第に見世を開ける時間も遅くなり、店の開くのが八つ(午後8時頃)で朝方までやっている「夜鳴きめし屋」となったのです。

 

この店には長五郎の人柄もあって、常連さんを始め様々な人たちも訪れ、色とりどりの人情劇が繰り広げられるのですが、そのうちに長松と惣助という七、八歳位の子供が食事に来るようになります。

そのうちの一人が、むかし、長五郎と思いを交わした娘の子らしいのです。長五郎は、その子らの来るのだ楽しみになり、何かと好みの料理を作り始めるのです。

 

こうした、市井の人たちの人情を描かせたら宇江佐真理という作家さんはやはりうまいですね。本書は宇江佐真理という作家の作品の中では決して出来が良いほうには入らない、どちらかと言えば平均的な物語だと思うのです。

それでもなお、その平均値がとても高いところにあって、物語としての面白さは十二分にもっているのが、宇江佐真理の作品であり、作家さんだと思います。

[投稿日]2016年01月03日  [最終更新日]2018年11月12日
Pocket

おすすめの小説

女性が描くおすすめの人情小説

女性ならではの優しい視点で語られる人情ドラマは、読み終えてからほんのりと暖かな気持ちにさせてくれます。
立場茶屋おりきシリーズ ( 今井 絵美子 )
品川宿門前町にある「立場茶屋おりき」の二代目女将のおりきの、茶屋に訪れる様々な人との間で織りなす人間模様が、美しい条件描写と共に語られます。
髪結い伊三次捕物余話シリーズ ( 宇江佐 真理 )
髪結いの伊三次とその妻とお文、そして伊三次が世話になっている同心の不破友之進の家族の物語です。
みをつくし料理帖シリーズ ( 高田 郁 )
天涯孤独の身である澪は、かつての雇い主であった大阪の「天満一兆庵」の再興を夢に、江戸は「つる家」で様々な事件を乗り越えて生きていく。
信太郎人情始末帖シリーズ ( 杉本 章子 )
呉服太物店美濃屋の跡継ぎの信太郎と引手茶屋千歳屋の内儀おぬいの二人を中心とした人間模様を描く人情物語です。
御薬園同心 水上草介シリーズ ( 梶 よう子 )
御薬園同心の水上草介を主人公とする、心温まる人情劇です。
善人長屋 ( 西條 奈加 )
『金春屋ゴメス』で第17回日本ファンタジーノベル大賞を受賞した著者の、人情味にあふれた連作の時代短編小説集です。
濱次シリーズ ( 田牧 大和 )
梅村濱次という歌舞伎の中二階女形を主人公にした作品です。軽く読めるのですが、それでいて舞台小屋の小粋な雰囲気が全編を貫いている、人情小説といえると思います。ミステリー性はあまりありません。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です