月村 了衛

イラスト1
Pocket

新刊書

幻冬舎

写真は Amazon にリンクしています。

楽天Booksは 楽天Books へ。


重厚と言ってもいい存在感のある『龍機兵シリーズ』とは異なって、エンターテインメント性が強い、より読みやすいアクション小説として仕上がっています。

ソマリアとジブチの国境近くで墜落したヘリを捜索していた自衛隊の捜索隊のところに、三人の女性が助けを求めてきた。その女性らを追ってきた集団は、突然、自衛隊隊員らに銃撃を仕掛けてきた。隊長を殺され、車をも奪われてしまった自衛隊員は、何とかその場を逃げ延びる。しかし、無線機も持たず、襲撃者の追撃を受ける中、見知らぬ土地を駐屯地まで帰りつけるのか。灼熱のアフリカを舞台にした逃避行が始まった。

本書の舞台となるソマリア及びジブチは、アフリカの東端に位置し、アラビア海に突き出した形状の半島の沿岸を占めています。ソマリア(正式にはソマリア連邦共和国)は近年海賊の出没が問題となっていて、各国がその対策に苦慮している地域です。本書の自衛隊も日本の船舶の護衛のために派遣されているのです。

本書は海賊とは全く関係はなく、内陸部で起きた自衛隊への襲撃事件について語られます。アクション小説ではありますが、本書の提起する問題は大きいものがあります。

自衛隊員が事実上の軍隊、軍人として、外国で、外国の人間に対し現実に発砲するという事実がいかに大きなことであるか。自衛隊員として他国の軍勢に対して発砲することが、国内的に、また国際的にさまざまな問題を巻き起こすであろうことは素人でも分かります。本書でも少しですが触れられています。しかし、本書ではそれよりも、ひとりの人間として人を殺すことへの葛藤や、指揮官としての苦悩など、人間としての側面に焦点が当てられています。「自衛隊というよりは人間として戦わざるをえない」状況だと、これは著者本人の言葉です。

残念なのは、そうした問題提起への関わり、掘り下げがあまり深くは感じられないことです。それよりも、戦闘行為の描写に興味が移ってしまいます。著者は多分、意識的に人間の内面の深みにまで踏み込むことを避けられたのではないかと思います。実際、インタビュー記事を読むと「現代社会のリアルな国際情勢を背景にしたエンタメの復権」などと著者本人が語られていたので、案外的外れでも無かったと思ったものです。

そういう「問題提起」という意味では、 安生正の『ゼロの迎撃』の方が鋭かったかもしれません。日本の都市部でのテロリストへの反撃行為自体の持つ法律的な問題点に対する掘り下げや、分析官である主人公の自分のミスに対する煩悶など、本書よりも緻密であったと思います。

この提起されている問題に対する関わりの浅さが残念ながら物足りなく思ってしまいました。でも、アクション小説としての面白さは十分なものがあります。そう割り切ってしまえば、かなり面白い物語でしょう。

[投稿日]2015年04月14日  [最終更新日]2015年4月14日
Pocket

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です