金峯山寺から修験者が市兵衛を訪ねてきた。祖父・忠左右衛門に縁をもち、市兵衛も知らない出自を明かすという。逡巡の末、市兵衛は急遽、吉野へ。一方、江戸では一刀のもとに首を刎ねる連続強盗が発生。だが、犯行の手掛かりは掴めず…。 (「BOOK」データベースより)
『風の市兵衛』シリーズも本巻から第二部が始まり、シリーズ名も『風の市兵衛 弐』となりました。
まだ新シリーズとなっての一作目であるために、物語がどのように変化しているかはよく分かりません。
ただ、これまで断片的に描かれていた市兵衛の過去、市兵衛の出自が明らかにされています。つまり、市兵衛の母が市枝ということは明らかになっていました。しかし、母方の祖母が梢花といい、吉野の村尾一族の出であることが今回初めて明らかにされたのです。
市兵衛の祖父唐木忠左右衛門と梢花との間にできた子が市枝であり、市兵衛を生んだというのです。その梢花の母親が篠掛(ささかけ)といい、今回市兵衛が吉野まで出かけて会うことになる、村尾一族の長老だったのです。
この村尾一族というのは、修験者の一族ではあるようなのですが、良く分かりません。ただ、その一人が江戸にいる市兵衛のもとに訪れ、吉野を訪問するように伝えます。
ここに、市兵衛の自分の来歴を知るという、本書『暁天の志 風の市兵衛 弐』での物語の一つが始まります。
ただ、市兵衛にその言伝を持ってきた猿浄という修験者が市兵衛のもとを訪れた帰りに首をはねられて殺されてしまいます。この殺害は、殺害の依頼を請けてこれを行うことを生業とするものの手によるのであり、その元締めとして多見蔵という男が登場します。
また、その殺し人の一人として信夫平八という男がいて、重要な役割を担うことになります。そして、信夫平八の二人の子、小弥太と織江とがひょんなことから市兵衛との繋がりを得、市兵衛と信夫平八とは仕事とは離れたところで出会うのでした。
こうして、江戸で起きている連続殺人に本書『暁天の志 風の市兵衛 弐』での市兵衛のもう一つの物語がありました。
本書『暁天の志 風の市兵衛 弐』では、市兵衛のまわりにちょっとした変化がありますが、その中でも市兵衛の仲間が何かにつけ集まっていた一膳飯屋の喜楽亭が無くなっていることが一番の変化と言えるでしょう。
名もない単におやじと呼ばれていた「喜楽亭」の親父は、卒中で亡くなってしまいました。いつの間にか居ついていて皆に居候と呼ばれていた野良犬は鬼しぶが連れていったのだそうです。
という訳で、今回は鬼しぶこと渋井鬼三次や手先の岡っ引きの助弥、それに返弥陀ノ助といったいつものメンバーは登場しません。代わりに、南町奉行所臨時廻り方掛同心の宍戸梅吉やその使いである紺屋町の文六親分、その手下である鬼しぶの息子の良一郎といった面々が登場します。
また喜楽亭の代わりと言って良いものなのかはまだ分かりませんが、市兵衛の新しい職場の神田青物御納屋役所の近くにある「蛤屋」という喜楽亭よりずっと小奇麗な二階屋がその候補として挙がっています。
本書だけでは市兵衛の来歴がこれからの物語にどのように関わってくるのか、まだ何も分かりません。ただ、若干マンネリ化を感じていた「風の市兵衛シリーズ」を新しく構成しなおそうという作者の意図はよく分かります。
今後の展開を待ちたいと思います。