辻堂 魁

日暮し同心始末帖シリーズ

イラスト1
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内藤新宿のはずれ、成子町で比丘尼女郎の千紗が首の骨をへし折られ殺害された。犯行を目撃しただろう妹は姿を隠してしまう。探索する北町奉行所平同心の日暮龍平は、千紗が執拗に付きまとう男から逃れるため、深川から流れてきたと知る。さらに過去を辿ると、千紗と妹との因果が明らかに。やがて、妹の命を狙う下手人の身勝手な動機に、龍平は鬼となる! (「BOOK」データベースより)

本書は、日暮し同心始末帖シリーズ第六弾の長編の痛快時代小説です。

 

 
序 家内暴力
日暮龍平の出勤前に、お万知が喜多野勇が暴れると言って逃げ込んできた。龍平が何とか押さえている間に組頭の川波らが取り押さえに来て、なんとかその場は収まるのだった。

第一話 成子坂
成子町で、首に右手一本で締められたらしい指の跡を残し、女が殺された。三日前から行方不明のお久仁という妹が客引きをし、殺された千紗が客を取っていたらしい。深川の女衒の十吉によると、二年前まで五間堀の三間町で比丘尼女郎をやっていて、千紗に頼まれ成子町を紹介したというのだ。

第二話 三間町の尼さん
成子町に行くついでに、喜多野らと共に角筈村の心勝寺に大観という祈祷師を捕らえに行くと、喜多野は大観を右手一本で突き上げ、投げ捨てる暴挙に出る。一方、宮三は埼玉郡越谷宿で、お千紗と思われるお円という娘の両親と兄に会い、そもそもお円は根っから女郎になるしかない女だったと聞きこんできた。また、喜多野の手下によると、喜多野は数年前に千紗という名の比丘尼女郎に入れ込んでいたらしい。

第三話 七日目の夢
お久仁が見つかり話を聞くと喜多野がお千紗を殺したのを見たという。龍平は、北町奉行永田備前守らに喜多野の犯行を報告していたが、喜多野が七振りの刀を抱えた信太と共に北町奉行所へと乗り込んできた。暴れまわる喜多野を押さえられない同心、与力だったが、龍平がその前に立ちふさがるのだった。

結 縁切り坂
母方の実家のある用賀村の縁者のもとに旅立つお万知を見送り、お久仁はお円の兄が越谷村へ連れて行き養女にしたと報告があった。

 

今回の物語は、少々趣旨がつかみにくい物語でした。というのも、今回の物語は喜多野勇という男の行動が中心となっているのですが、いくら心に鬱屈を抱えているからといってここまで破れかぶれになるのだろうか、という疑問がずっと頭の片隅に残っていたからです。

龍平はもともと旗本の部屋住みであり、その男が不浄役人と蔑まれた同心の家へ養子に入ったのですが、喜多野勇は貧乏同心の家に、更に貧乏な家から養子に入り、不細工な嫁からはいつも見下されていて、心に鬱屈を抱えた日々を送っていたというのです。

しかし、それにしても激高の程度がひどく自殺願望があるとしか思えません。でも、よく考えて見ると、近年、激高の末に殺人に至る、という事件のニュースをよく見聞きすることに気がつきました。

してみると、こうした話も決して絵空事ではないのかもしれません。そこに日暮龍平が絡み、痛快小説として仕上げてあるわけです。

一方で、男が無くては生きていけない女の行きつくところを描いた物語でもあり、それはそれで哀しい話です。女郎としてしか生きていけに女に入れ込んだ哀しい男の物語でもあるかもしれません。

シリーズの雰囲気も維持したまま、それでも龍平は夫として、そして父親としてもひとつの理想像を生きているようなな気がします。

[投稿日]2018年09月16日  [最終更新日]2018年9月16日
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