辻堂 魁

日暮し同心始末帖シリーズ

イラスト1
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佃島の海に男の骸があがった。役人が正視できないほどの撲殺であった。仏は石川島の人足寄場を出たばかりの無宿人と見られたが、成り変わりと判明。探索の結果、三年前に起きた未解決の妙な押しこみ事件が浮上し、ひとりの風鈴を愛する妾の関わりが疑われる―やがて、すべての真実がひもとかれたとき、北町奉行所平同心・日暮龍平の豪剣がうなりをあげた! (「BOOK」データベースより)

本書は、日暮し同心始末帖シリーズの第三弾となる長編の痛快時代小説です。

 

石川島人足寄せ場から解き放ちとなった常州無宿鉢助は、翌朝佃島の沖で死体となって見つかった(序 三年三月)。

龍平がこの事件を担当することになり、鉢助の過去を調べ出したところ、鉢助という男は既に死んでいたことが判明する(第一話 春蝉)。

そこに火付け盗賊改同心土屋半助が龍平を訪ねてきてた。鉢助という男は、実は朱鷺屋長佐衛門妾宅への押し込みの一人の伝七のことであり、龍平が鉢助の死に関し追っている常次という男は自分の手下としてこの鉢助を追っていたので、これから先はは自分に任せてほしいと言うのだった(第二話 冬の風鈴)。

その後、忍平ノ介という朱鷺屋長佐衛門妾宅への押し込みの一人の捕縛に、平ノ介の兄が同道させてほしいと言ってきた。平ノ介の過去にひそむ悲哀を認めつつ、兄と共に捕縛に向かう龍平だった(第三話 おぼろ月)。

一件落着後、龍平は、俊太郎と共に俊太郎が喧嘩をした相手に謝りに行き、傲慢な相手の親の言い分に従い、剣術の試合をすることになるのだった(桔 一刀龍)。

 

本書『冬の風鈴』でも、前巻え感じた印象は変わってはいませんでした。

即ち、単なる人情時代劇ではなく、横暴な権力あるいは暴力を持つ強者のために悲哀を抱いて暮らさざるを得ない一般庶民である弱者の恨みを、ヒーロー、即ち日暮龍平という主人公が晴らすという構造です。

危機に陥っている弱者を助けるヒーローではなく、既に地獄に落とされてしまっている弱者の恨みを晴らす存在としての主人公なのです。

本書では、家族のために身を売り、その後身請けされて妾となったもののひどい仕打ちを受けていた女や、その女と似た境遇の侍が登場します。決して痛快小説というわりには明るくない内容なのです。

その点では、重く、暗い話ともなりそうですが、そこは痛快時代小説書き手としてのうまさでしょうか、単に重い話としては仕上がっていません。『風の市兵衛シリーズ』の爽やかさはありませんが、『日暮し同心始末帖シリーズ』の頁にも書いたとおり、龍平家族は常に未来を見つめており、暗さは微塵もないのです。

こうした家族を描くことで、シリーズとしての話の重さは半減され、痛快小説としての面白さだけが残っている気がします。

[投稿日]2018年07月21日  [最終更新日]2018年8月27日
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