辻堂 魁

日暮し同心始末帖シリーズ

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柳原堤で物乞いと浪人が次々と斬殺された。殺しの夜の隅田川には奇声が響いてたという。探索を命じられた北町奉行所の平同心・日暮龍平は、絶大な人気を誇る女義太夫姉妹の存在を知る。その美しく物悲しい節回しとは対照的な、ひいき筋の旗本の異様な興奮振りを龍平は疑うが…身分を楯にした傲慢な若侍の暴走を、龍平の剛剣が裁く。迫真の時代小説第二弾! (「BOOK」データベースより)

本書は、日暮し同心始末帖シリーズの第二弾となる長編の痛快時代小説です。

 
目次

序 春の雪 | 第一話 送り錬 | 第二話 古着 | 第三話 娘浄瑠璃 | 桔 花吹雪の杜

 

このシリーズ第一巻『はぐれ烏 日暮し同心始末帖』は、各章ごとの人情話が綴られている連作短編小説集だといってもあながち間違いではない、と思える各話が独立した物語でした。

しかし、本書『花ふぶき』になると、少々物語の雰囲気が変わってきています。もともと、爽やか系の物語ではなかったと思うのですが、本書では、「序 春の雪」で起きた誘拐事件が本書全体を貫く大きな物語の核となっていて、各章ではその事件にまつわる細かな捕物が展開される形式になっているのです。

 

つまり、「序 春の雪」で阿部伝一郎の誘拐事件が起きます。

次いで「第一話 送り錬」では、伝一郎の誘拐事件の時に縛られ取り残された女義太夫楓染之介とその姉参にまつわる「送り連」に焦点が当たります。柳原堤で続いて起きた殺人事件について、「飛龍魔連」と名乗る、たちの悪い部屋住みが集まった「連」が対象となるのです。

その後「第二話 古着」では、龍平が伝一郎誘拐事件の担当となります。そこで伝一郎の着ていた着物に目をつけた宮三が古着を売った物乞いの熊造を探り出し、物語は急展開を見せます。そして、煮売り屋「夢楽」の亭主伊兵衛を巻き込んだ展開となるのです。

また「第三話 娘浄瑠璃」で、銀座屋敷の吉右衛門という見張座人が鎌倉河岸で殺された事件の持つ秘密を持って、新たな人物が登場し、伝一郎誘拐事件の隠された謎の解明が為されることになります。

 

このように、第一巻での人情話から、権力の前にひれ伏すしかない一般庶民という弱者の抱える悲哀をテーマに、主人公日暮龍平が如何に関わり、解決していくかという、文字通りの痛快時代小説と変化しているのです。

ただ、通常の痛快小説よりは弱者の恨みがより強く、一般庶民の悲哀が込められているように思えます。ただ、それは『夜叉萬同心シリーズ』の持つ「闇」とまではいかないようですが、辻堂魁でいうと『風の市兵衛シリーズ』ほど爽やかでもなく、若干『仕舞屋侍シリーズ』に近いという印象でしょうか。

登場人物の抱える「闇」という点では、 あさのあつこの『弥勒シリーズ』が一番に思いだされますが、この『弥勒シリーズ』はまた特殊であり、主人公の同心木暮信次郎と遠野屋清之介という元暗殺者の織りなす心象描写の重さは他では類を見ないといっても過言ではありません。

 

 

本書もそこまでは重くなく、ただ痛快小説において主人公が解決する対象となる事件が少々悲惨さが強い、というくらいに考えていたほうがいいのかもしれません。

とはいえ、主人公の日暮龍之介一家の明日を見据える暮らしは、あくまで明るく、物語の持つ悲哀をかなりな程度和らげてくれているようです。

痛快小説の主人公の造形はなかなか難しいとは思いますが、本書の日暮龍平という人間像は、まだ二作目とは言え、かなり成功している、と言えると思います。今後の展開が楽しみなシリーズとして育っていると思います。

[投稿日]2018年07月20日  [最終更新日]2018年7月20日
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