田牧 大和

とんずら屋シリーズ

イラスト1
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著者の田牧大和の別な作品である『からくり』シリーズとはまた異なる、独特の雰囲気を持ったシリーズです。『からくり』シリーズは私の好みに丁度はまったので、本作品もそれなりの期待を持って読み始めたのですが、期待以上に面白い作品でした。「とんずら」の依頼毎の連作の形式をとっているのですが、実質は全体で一つの長編作品と言えます。

自らも「逃げ」た過去を持つ弥生は、普段は船宿「松波屋」の船頭「弥吉」として、男として生活をしていた。女船頭では吉原への行き来も多い船宿としての商売上も都合が悪く、また船頭の世界でもやっかみや憎しみの対象でしかないのだ。そして、一番の理由は来栖家当主の血を引きながら鎌倉の東慶寺でひっそりと生を受けたという弥生の過去にあった。

以前中村雅俊を主人公として『夜逃げ屋本舗』というテレビドラマ、映画がヒットしたことがあります。「夜逃げ」という極限状況に陥らざるを得なかった様々な人間ドラマを描いていて、面白い作品でした。

本シリーズも「夜逃げ」という状況下のドラマを描くことに変わりはありませんが、主眼は「とんずら」自体ではなく弥生自身にあります。つまり、各話で語られる「とんずら」の物語にかかわる弥生の行動を通して、少しづつ弥生の過去が明らかになって行くのです。勿論、各話で語られる「とんずら」の話も人情物語でもあり面白い話です。そういう意味では、各話の「とんずら」の話と、次第に明らかになって行く弥生自身の物語の二重構造の面白さがあります。

登場人物の設定が良くできています。船宿「松波屋」の女将お昌(おまさ)は「剛毅で強欲」な女傑であって、弥生の叔母でもあります。また、啓次郎(けいじろう)は『「とんずら屋」に助けを求めようとした矢先に一家皆殺しに遭った生き残りの子』であり、お昌自身が厳しく仕込んだ「裏稼業の跡継ぎ」です。それに「陸(おか)」の「とんずら」を受け持つ韋駄天の源次(げんじ)がいます。これらの人間が良く書き込まれていて、物語に深みを与えています。

それともう一人、京でで評判の呉服問屋『吉野屋』の跡継ぎの進右衛門(しんえもん)がいます。「松波屋」に長逗留している若旦那、という触れ込みです。

個人的な好みから言えば、もう少し情緒面を抑えてあればなお良かったでしょう。特に弥生の内面をこれでもかと描いてるのが、少しだけ感傷的に過ぎないか、と読みながら思ったのです。

そう言いながらも、かなりのめり込み、一気に読んでしまいました。

[投稿日]2015年04月14日  [最終更新日]2015年11月5日
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