高村 薫

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新潮社

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第109回(1993年上半期)直木賞、第12回日本冒険小説協会大賞を受賞した作品です。

「俺は今日からマークスだ!マークス!いい名前だろう!」―精神に「暗い山」を抱える殺人者マークス。南アルプスで播かれた犯罪の種子は16年後発芽し、東京で連続殺人事件として開花した。被害者たちにつながりはあるのか?姿なき殺人犯を警視庁捜査第一課七係の合田雄一郎刑事が追う。直木賞受賞作品。(上巻)
勤務先の病院を出た高木真知子が拳銃で撃たれた!やがて明らかになってゆく、水沢裕之の孤独な半生。合田はかつて、強盗致傷事件を起こした彼と対面していたのだった。獣のように捜査網をすり抜ける水沢に、刑事たちは焦燥感を募らせる…。アイゼンの音。荒い息づかい。山岳サークルで五人の大学生によって結ばれた、グロテスクな盟約。山とは何だ―マークス、お前は誰だ?―。(下巻)
(出典 : 「BOOK」データベース)

これ以上は無いというほどに濃密に書きこまれた文章は、その場の状況や登場人物の心裡までをも緻密に描き出しています。

東京で起きた連続殺人事件を調べていくと、十六年前に南アルプスで起きた岩田幸平という男の起こした殺人事件に結びついていきます。その捜査を担当するのが警視庁捜査第一課七係の合田雄一郎刑事を始めとする捜査員たちです。

このごろの警察小説は、 今野 敏の『隠蔽捜査』シリーズのように、チームとしての捜査を描く手法のものが多くなってきています。本書もそうで、合田雄一郎刑事を班長とする捜査班ほかの、捜査第一課七係の捜査員それぞれの活動が克明に描かれています。それも、各捜査員の内面まで踏み込んで描き出しているのです。

この捜査員の描写は、捜査の実際がどうなのかは勿論私にはわからないものの、圧倒的なリアリティーを持って迫ってきます。ただ、そこまで個人プレーかという若干の疑問点が無きにしも非ずですが、その印象も著者の筆力に負けたというところでしょうか。

特に合田雄一郎刑事の心理描写は濃厚です。それと同様に緻密に描き出してあるのが「マークス」と自称する犯人の心裡であり、ややもすると、この二人の抱える闇は同じものではないかと思えるほどです。

ただ、犯人の心理描写については好みが分かれるところではないでしょうか。サイコパスとしか言いようのない人物の描写はかなり強烈な印象があり、読者が置いていかれかねません。それとも、この犯人の緻密な描写を嫌う人はそもそも本書を読み続けてはいないのかもしれません。

高村薫の警察小説と言えば必ず言われるのが「濃厚」であり「重い」という言葉です。とくに本書を第一冊目とするシリーズはその印象が強いのではないかと思われます。未だ本書しか読んでいない身としては大きなことは言えないのですが、各種高村薫作品についてのレビューなどを読んでいるとそう思われるのです。

ついでながら付け加えますと、本書は早川書房から1993年3月に出版され、2003年1月に講談社から全面改稿されて出版されました。その改稿では、ある男についてどこまでも追い詰める、という合田の意思表示があった最後の一頁が無くなったそうです。

私読んだのは新潮社の文庫版であり、これは講談社の文庫版とほぼ同じらしいです。「マークスの山」の改稿について調べてみると、改稿前ほうがいいという声が大半でした。改稿によって「回りくどい独特な心理描写が増えた代わりに、情緒的な人間描写や会話などのやり取りが減った。」のだそうで、人によっては「別作品」だと言う人さえいるくらいです。

私も読み比べてみようかとも思いましたが、またこの作品を一から読む元気もなくあきらめました。

[投稿日]2016年10月18日  [最終更新日]2016年10月18日
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