定廻り同心樺山富士太郎を凶刃から救った米田屋のあるじ琢ノ介が倒れ、危篤状態に陥った。湯瀬直之進と倉田佐之助は急ぎ米田屋に駆けつけるが、そこには鎌幸をかどわかした張本人撫養知之丞の配下と思しき男らが様子をうかがっていた。二振りの名刀「三人田」を我が物にせんと企む撫養の狙いは一体何なのか。そして直之進は無事鎌幸を救い出せるのか!?人気書き下ろしシリーズ、第三十四弾。(「BOOK」データベースより)
口入屋用心棒シリーズの第三十四弾の長編痛快時代小説です。ここ数巻では名刀三人田に絡んだ話が続いていましたが、本巻でも三人田の話が続きます。
前巻の終わりで賊に襲われている富士太郎を危機一髪のところで救った今では米田屋の主となっている琢之介でしたが、本書冒頭ではその琢之助が危篤状態に陥っているところから始まります。
その話を聞きつけた直之進と佐之助が駆けつけたところ、米田屋を見張る、前巻で鎌幸を攫った撫養知之丞の配下の者らしい気配がするのでした。とすれば、富士太郎を襲ったのは撫養知之丞ということになります。
撫養知之丞が江戸に出てきたのは、三人田の存在がありました。三人田の正と邪のふた振りの剣が揃うと天変地異が起きるそうで、撫養知之丞はそのことにより乱世を導こうとしていると考えられるのです。
一方、富士太郎は、太田源五郎殺しの下手人のおさんから、おさんの店に撫養知之丞が来たことを聞き、また、佐之助は撫養知之丞が故郷を出奔した理由が、忍びである撫養家が作っていた薬に関わるものであることを調べ出します。
ここで、おさんが犯した殺人や奉行所の不審な人事などの不審な出来事の裏に、撫養知之丞の薬による操作があったことを知るのでした。
本書でもまた、筋立ての粗さを感じてしまいました。撫養知之丞の行いの裏に、荒唐無稽としか言いようのない、ふた振りの三人田が起こすであろう天変地異により天下の転覆を企てがある、というのは少々乱暴に感じます。
この物語が、これまでの運びとしてこのような設定を受け入れる要素など全くない物語であったのですから、突然に伝奇的な事件を持ちだされても戸惑うばかりです。それであれば、伝奇的な要素を持ちこむ要素をもう少し設けておいてほしい、と思うのです。
直之進、佐之助、富士太郎、それに琢之助らのキャラクターの面白さ、それに鈴木英治独特の文章という救いがあるために読み続けていますが、もう少し丁寧なストーリーを願いたいものです。
ともあれ、本書で三人田の物語は終わったものと思われます。次巻からはまた新たな物語が始まると思われるので、そちらを期待したいと思います。