杉本 章子

お狂言師歌吉うきよ暦シリーズ

イラスト1
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今をときめくお狂言師の歌吉は隠密の手駒も務める。踊りを披露したこともある将軍家慶の養女精姫の嫁ぎ先として名の挙がる井伊家と有馬家の使者が、心中に見せかけて殺された。男は井伊家御用達の畳表問屋堺屋の跡取りで、歌吉を小鋸で斬りつけたお糸のもと許嫁。因縁のお糸から事情を探れという密命が。(「BOOK」データベースより)

 

お狂言師歌吉シリーズの三作目です。

 

三作目ともなる本作では「お狂言師」や「舞踊」といった特殊な世界の言葉についての説明はすでに十分になされており、エンターテインメント性も増して実に読み応えのあるシリーズになっています。

今回は日本舞踊の世界の描写も多くはなく、事件の描写が主になってきていますが、物語の基礎には舞踊の世界が横たわっているのですから、話の世界観、雰囲気はそのままです。

 

本作ではお吉の活躍は控えめで、焦点は公儀隠密の日向新吾の働きに移っています。

将軍家の精姫様の輿入れをめぐり、多額の費用がかかり過ぎるとの理由でこれを回避したい一派と、姫君の受け入れは誉であり受け入れるべきとする一派との暗闘が、お吉の身の回りにも降りかかってきます。

そうした中、日向新吾は有馬家の大横目方森崎静馬を見張るうち、森崎静馬を刺客から助けることになるのです。

この二人の男臭い、見方によっては青臭いともとれる行いは、この作家には珍しい描写で、今後の展開が待たれます。

 

お狂言師という職業を設定した作者の思惑は見事であり、その「お狂言師」の生き生きとした描写力、その筆致にもただただ感心するばかりです。

そのうえで、これだけのエンターテインメント性豊かな物語を構築するのですからその筆力は素晴らしいものがあります。

 

本シリーズは各巻毎に読んでも面白く読めるでしょう。しかし、それまでの話を前提にして進んでいきますので順番に読んだ方が面白さは増すと思います。

シリーズはまだまだ続くでしょうし、「信太郎人情始末帖」のように七作で終わらずにずっと続けてもらいたいものです。

[投稿日]2015年04月13日  [最終更新日]2020年6月21日
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