大名家の奥向きで踊りをお見せする狂言師の一座に加わって間もない歌吉に、上様の御前で「道成寺」の連れ舞を披露するという大役が。相方の坂東流名取りの照代は上様のお手つきで、三年前に宿さがりしながら再び召し出されることになり、命を狙われているという。大奥におもむく二人を嫉妬の渦が待ち受ける。(「BOOK」データベースより)
お狂言師歌吉シリーズの二作目です。
同輩により顔に傷を負った歌吉ですが持ち前の明るさから再びお狂言師の道を歩み始めます。そして隠密の手伝いも無事終えた前作に続いて今回のお話が始まります。
坂東流名取の照代といるところを襲われ、また自分が襲われたと思った歌吉でしたが、実は襲われたのは照代でした。
照代が将軍のお手付きであったことから、歌吉もまた大奥の陰謀に巻き込まれることになるのです。
前作同様に、本作品も小粋な雰囲気をまとった作品として仕上がっていて、これまでの時代小説とは趣が少し異なります。その上、今回は前作から三年が経っているからか、このシリーズに慣れたからなのか、お狂言師というキャラクタが実に生き生きとしています。
また、大奥のしきたりや決まりごと、またそれに伴う所作等々の見知らぬ情報が盛り込まれています。
例えば大奥ではお狂言師とは言わずに、お茶所(おちゃどこ)とかお茶の間子供などと言うらしいなど、さりげなく会話の中に織り込まれているのです。更には、よく聞く女同士の戦いも見所となっています。
そんな大奥での照代と歌吉の二人での「道成寺」を踊る場面は圧巻です。日本舞踊のことが分からない私でも、十分にその雰囲気を味わうことが出来ました。
更には歌仙や照代の恋、また歌吉を挟んでの公儀隠密の日向新吾と材木問屋角善という前作でも登場していた二人の跡取り息子宗助の振舞いも色を添えています。
物語の終幕にまたひとつ、ほろりとさせられる人情話も付け加えてあり、堪能できる物語でした。