雫井 脩介

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文藝春秋

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蒲田の老夫婦刺殺事件の容疑者の中に時効事件の重要参考人・松倉の名前を見つけた最上検事は、今度こそ法の裁きを受けさせるべく松倉を追い込んでいく。最上に心酔する若手検事の沖野は厳しい尋問で松倉を締め上げるが、最上の強引なやり方に疑問を抱くようになる。正義のあり方を根本から問う雫井ミステリー最高傑作! (上巻)
23年前の時効事件の犯行は自供したが、老夫婦刺殺事件については頑として認めない松倉。検察側の判断が逮捕見送りに決しようとする寸前、新たな証拠が発見され松倉は逮捕された。しかし、どうしても松倉の犯行と確信できない沖野は、最上と袂を分かつ決意をする。慟哭のラストが胸を締めつける感動の巨篇! (下巻 : 「BOOK」データベースより )

雫井脩介という『犯人に告ぐ』での大藪春彦賞を始めとする各種の賞を受賞している作家の作品らしく、実に重厚で読み応えのあるミステリー小説です。少々テーマが重く、軽めの作品を好む人にとっては受け入れにくい物語かもしれません。

東京地検のベテラン検事である最上毅は、大田区で起きた老夫婦刺殺事件の容疑者が、かつて今は時効となっているものの自分の想う人を殺したと確信する人物であることを知ります。この男が今回の事件の犯人であるのならば、今回こそは逃がさないと決意しますが、最上の捜査方法に疑念を抱く人物が現れるのです。それは自分の教え子でもある部下の沖野啓一郎という検事でした。

作家本人の言葉によると、「時効によって逃げ切った犯罪者を裁くことは可能か、という問いが着想のきっかけ」なのだそうです。そのためには「捜査をある程度コントロールできる立場かつ、刑罰に意識的な人間」が中心にいなければならず、そのためには「検事」という職務が最適だと考えたのだそうです。しかし、検事の職務についての知識に乏しく、その点でリアリティを出すのに苦労したとも言っています。

この点での著者の苦労があったからこそのリアリティだと感じました。検察官の取り調べの様子などは、勿論その実際を知るものではない私ですが、何の違和感も抱くことはありませんでした。それどころか、最上を始めとする検察官という人間の「法」に対する思い、「正義」という言葉の持つ意味についての悩みなど、読み進むにつれ惹きこまれていったほどです。

ただ、それとは別にどうにも最上という検察官の存在そのものに違和感を感じてしまいました。このような検察官の存在自体が結局虚構でしかあり得ないと感じ、その違和感をぬぐえませんでした。

勿論、小説の設定ですから、作家の書きたい思いを表現するためのデフォルメの一つだと割り切れば何ということは無い問題の筈です。実際、私も殆どの小説ではそのように割り切っているからこそ面白い物語として読んでいるのでしょうから。しかし、一旦そう感じてしまった以上はどうしようもありません。

このように感じるのは少数派だと思います。事実、レビューを読むと大多数の人は本作品を力作であり、面白い作品だと評価しています。

本書を含む多くの小説が、「正義」という面映ゆさを伴うこの事柄を軸にしています。例えば 東野圭吾の『さまよう刃』や 横山秀夫の『半落ち』など、他にも挙げればきりないでしょう。共に人間の存在という根源的な問いかけをテーマにしていて、登場人物に一般では考えられない行動を取らせているのです。ですが、違和感を感じないのですから、読み手の我がままと言うしかないのでしょう。

検察官を主人公とする小説と言えば、近時 柚月 裕子の『最後の証人』という作品が掘り出しものでした。本書に比べるとかなり読みやすく、それでいて社会性も持っている小説です。佐方貞人というヤメ検を主人公としてシリーズ化されていてお勧めです。

しかし、私らの年代で言えば検察官を主人公にした推理小説と言えば、 高木彬光の『検事霧島三郎』でしょう。正義感に燃えた青年検事の活躍が光ります。ただ、近時の文庫本の表紙イラストはいただけない。

ところで、本書が映画化されることが発表されました( 映画.com : 参照 )。監督はリメイク版の『日本のいちばん長い日』や『駆込み女と駆出し男』を撮った原田眞人で東京地検の最上毅検事を木村拓哉、若手検事の沖野啓一郎を二宮和也というジャニーズコンビで演じるのだそうです。

配役に関してはいろいろと言いたいこともあります。しかし、それを言い出したら始まらないので言いませんが、ただ、この両者で本書のテーマである「正義」を重厚感をもって表現してくれるのか、それだけが気がかりです。

とはいえ、映画は監督ものだということを聞いたことがあります。監督の本書についての解釈が「法」と「正義」ではなかったならば、出演者の演技を論じることも無いですね。

[投稿日]2016年09月27日  [最終更新日]2017年5月5日
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