三月末、北海道東部を強烈な吹雪が襲った。不倫関係の清算を願う主婦。組長の妻をはずみで殺してしまった強盗犯たち。義父を憎み、家出した女子高生。事務所から大金を持ち逃げした会社員。人びとの運命はやがて、自然の猛威の中で結ばれてゆく。そして、雪に鎖された地域に残された唯一の警察官・川久保篤巡査部長は、大きな決断を迫られることに。名手が描く、警察小説×サスペンス。(「BOOK」データベースより)
前作『制服捜査』に続く、駐在警官川久保篤シリーズの第二弾です。連作短編集だった前作とは異なり、本作は文庫版でも504頁という長編の警察小説です
物語の形式としても、前作は川久保巡査の勤務状況を描写するスタイルで物語が進んでいましたが、本作はいわゆるグランドホテル形式で、同時多発的に発生した場面ごとに物語が進行します。すなわち、めずらしく強烈な「彼岸荒れ」が道東を襲い、同時多発的に発生した事柄に遭遇したそれぞれの人たちが、思惑が多いに外れ、北の大自然に振り回される姿がサスペンスフルに描かれているのです。
その発端となるのが、川久保巡査長が発見した死体でした。事故か他殺か、関係者に当たるなかで他殺の疑いが濃くなりますが、「彼岸荒れ」のために捜査もはかどりません。地域に密着した駐在さんが事件に絡む状況を作り出した「彼岸荒れ」とも言えるのでしょう。
不倫関係清算を願う妻、ヤクザの組長の家を襲った強盗犯、家出女子高生、会社の金を持ち逃げした会社員といった人々が、季節外れの「彼岸荒れ」に振り回されながら、次第に一軒のペンションに集まっていきます。このペンションの中でも一編のドラマが繰り広げられるのだけれども、なかなかに読み応えがありました。
ちなみに、本書「解説」の香山二三郎氏によると、著者は本シリーズのことを「保安官小説」だと言っておられるそうです。そう言えば、本書のラストはまさに保安官の物語だと納得がいったものです。
グランドホテル形式の作品は数限りなくありますが、なんと言ってもまず思い出すのはアーサー・ヘイリーの『大空港』です。かなり古い作品で、私が読んだのも数十年前のことですが、この作家の作品はどの作品をとっても小説としての面白さを十分に備えた、読み応えのある作品ばかりでした。特に『大空港』は、ある雪に閉ざされた空港で巻き起こる様々な事件を描いた、パニック小説としても十二分な面白さを負った作品だったと覚えています。バート・ランカスター主演で映画化もされました。
駐在さんの物語といえば笹本稜平の駐在刑事がありました。本書『暴雪圏』のようなサスペンスに満ちた物語ではなく、山を舞台に、そこで繰り広げられる人間ドラマが描かれている作品です。私はシリーズ二作目の『尾根を渡る風』しか読んでいませんが、物語の雰囲気は一巻面も同じであり、本書とは少々趣きは異なるものの、こちらもまたかなり面白い作品でした。