逢坂剛の『禿鷹の夜』シリーズの二作目です。一作目よりもバイオレンス度が増していると感じる作品でした。勿論、禿富刑事、通称「ハゲタカ」のワルぶりは健在です。
渋六興業の縄張りにある小さなバー「みはる」からみかじめ料を取ろうとしていた元敷島組の組員の宇和島博は、そこに現れた禿富刑事から叩きのめされてしまう。現在の宇和島は、渋谷への進出を図る南米マフィアのマフィア・スダメリカナ、通称マスダの傘下に入っており、渋六興業の縄張りの乗っ取りを図っていたのだった。
本書でのハゲタカは、南米マフィアとヤクザよりもたちの悪い警察官との両者を相手として戦います。またその戦いが全てです。直接にはマスダの幹部となっている宇和島や、マスダの殺し屋王展明であり、一方で禿富刑事をつぶそうとする悪徳警察官を相手にするのです。
ノワール小説的な本シリーズで、これだけ強烈な悪徳警官としてのハゲタカこと禿富刑事である以上、警察内部でもハゲタカの敵がいるのは当然で、本書ではマスダの他にキャリア、ノンキャリアを問わず悪徳警官が登場し、強烈な敵役として登場します。
勿論、例によって女性も登場はします。それがバー「みはる」のママ桑原世津子なのですが、他の男どもの圧倒的な暴力性の前には、その存在感は薄くならざるを得ません。
ハゲタカの内面描写を全くしないというこのシリーズの性質上、ハゲタカの内心は読みとるしかありません。そこでハゲタカという悪徳刑事の真意を考えると、どうしても最終的には人間らしい側面が隠されている、と読みとりたい気がしてきます。悪に徹底している主人公、という観念が受け入れられないのでしょう。実際、叩きのめしたした相手になにがしかの手を差し伸べるかの様な描写もあるのです。そうした行為は「善」の発露と読みたくなります。
まあ、そういうことは差し置いて、逢坂剛の『MOZU』シリーズとはまた異なった、悪徳刑事の物語として本シリーズのエンターテインメント性を十分に楽しめばいいのでしょう。