平和な里で突如、花火が鳴り響いた。軍鶏侍・岩倉源太夫が住む園瀬藩緊急の報せだ。番所に急行する藩士たち。現地には何の異変もなかったが、源太夫は公儀の企みであると看破。さまざまな疑惑が浮かぶ中、園瀬が最も沸く、盆踊りの季節がやってこようとしていた。もしや、狙いは祭りそのもの…。源太夫は園瀬の民を守れるのか。シリーズ初長編、緊迫の第六弾。
本篇は、軍鶏侍シリーズの第六弾です。番外編ともいうべき『遊び奉行』を除けば軍鶏侍シリーズ初の長編で、かつての藩の改革の時の仲間とともに再び源太夫が園瀬藩の政争に巻き込まれていく姿が描かれています。
突然打ち上げられた「雷」。その裏に存在する秘密を探るうちに、藩の重職と有力商人との結託や、園瀬藩の特産である莨栽培の秘密を狙う隣藩の存在などが浮かび上がってきます。その一つずつを確かめつぶしながら園瀬という土地の自然や成り立ちが明らかにされていくのです。
中でも『遊び奉行』でも語られていた園瀬の「盆踊り」には力を入れていることが感じられ、著者の多分徳島の「阿波踊り」に対する愛情をにじませる物語ともなっています。
こうした園瀬の情景を描く中、源太夫の、人との関わり合いを忌避して生きるという当初の思惑からは遠く離れ、道場で教える師弟の人生に深くかかわり、園瀬藩の重鎮との交流から藩の政にもかかわる立場になっている姿が生き生きと浮かび上がってきます。
巻を重ねるにつれ、物語の世界は奥行きを増し、若者たちの成長譚、剣豪もの、アクション、恋物語、そして軍鶏のことと、幾重もの貌を見せながら広がりを見せていくのです。
今のところ私が一番面白さを感じ、続刊を楽しみにしているシリーズとなっています。