逆恨みから闇討ちを受け、果たし合いまで申し込まれた岩倉源太夫。秘剣・蹴殺しで敵を倒し、その技を弟子たちに見せたのだが…。その教えぶりを碁敵の和尚は、獺祭のようだと評した(「獺祭」より)。緑美しき南国・園瀬を舞台に、軍鶏侍・源太夫が、侍として峻烈に生き、剣の師として弟子たちの成長に悩み、温かく見守る姿を描いた傑作時代小説。待望の第二弾。(「BOOK」データベースより)
『軍鶏侍』シリーズの第二弾です。第一作目の『軍鶏侍』は、そのストーリーでも、また情景や心情の描写力においても、久しぶりに良書に出会えたと感じた小説でした。本書でもその印象は変わらず、更にこの物語に出会えたことがうれしくなった作品でした。前作と同様に四編の作品からなる短編集です。
「獺祭(だっさい)」
獺祭とは、「カワウソが自分のとった魚を並べること。」だそうで、つまりは「手持ちの札をすべて並べて見せる」ことであり、碁仇である正願寺の恵海和尚から言われた言葉です。前作で秘剣「蹴殺し」を使い、武尾福太郎などの武芸者を倒したことが世に広まり、源太夫の道場も盛況になります。反面、他の道場の妬みをうけるようになり、中には源太夫を闇討ちしようとする輩も出てきます。源太夫はその立ち合いに弟子の中から有望な二人に「蹴殺し」を見せ、秘剣ではなくしようとするのです。と同時に、弟子たちの成長をも図ろうとします。
「軍鶏(しゃも)と矮鶏(ちゃぼ)」
軍鶏の卵を孵化させる方途として、軍鶏の卵を矮鶏に温めさせ孵化させるのが一般だそうです。源太夫は、太物問屋の結城屋の隠居である惣兵衛という軍鶏仲間と共に、美しい軍鶏を育てることに熱中します。そこに、源太夫の道場に通う森正造という九歳の少年の画才を見出した源太夫は、何とか正造を画の道に進めようとするのですが。正造の父森伝四郎はそれを許しません。その訳は意外なところにありました。
「岐路」
源太夫は、前作の「沈める鐘」で描かれた、源太夫が討ち果たした、源太夫の今の妻みつの前夫立川彦蔵の月命日には、彦蔵に殺された彦蔵の後妻の弟である狭間銕之丞を墓参に連れて行っていた。その折に銕之丞は古くからの知己らしいひとりの娘と出会い、想いを寄せあっているようであった。また、同じく源太夫の弟子のひとりである田貝忠吾が、どうも女性の絡んだ事柄で屈託を抱えているらしく生彩を欠いているのも気になっていたが、朴念仁の源太夫にはどちらも手に余る事柄だった。
「青田風」
前作の第一話「軍鶏侍」で、源太夫は親友であった秋山精十郎を討ち果たしたが、彼には一人娘がおり、今では娘の母親の面倒を見ていた湯島の勝五郎という顔役のもとで勝五郎を父として元気に育っていた。その娘が勝五郎とともに園瀬に来る。その裏には秋山精十郎を嫌いぬいていた兄で、父の名を継いだ秋山勢右衛門の存在があった。
冒頭にも書いたように、このシリーズは文章も物語の構成も見事に私の好みに合致した物語です。このごろの時代小説の中では青山文平氏の作品をベストだと思っているのですが、その青山氏の作品に負けない面白さを持っていると感じています。他にも読み応えのある時代小説が数多く出てきてはいるのですが、このシリーズに勝るものは無いと思っています。