小池文造が両国で目撃された、という。藤原道場で共に汗を流した仲ではあるが、もとより傲岸きわまりない男だった。私闘に敗れ逐電した後、どのように命を繋いできたのだろうか。やがて、定町廻り同心・朽木勘三郎は宿命の対決へ歩みを進めてゆく(表題作)。勘三郎とその配下朽木組の痛快無比な活躍を描く全四篇。「時代小説に野口卓あり」と高らかに告げる、捕物帳の新たなる定番。(「BOOK」データベースより)
北町奉行所朽木組シリーズの第二弾で、四編の短編が収められた時代短編小説集です。シリーズも二作目となり作者も慣れたのか第一作目よりも楽しく読むことができたように思います。
「門前捕り」
「門前捕り」を任された新任同心の名倉健介は、途中で賊を取り逃がしてしまう。町方は面目にかけても捕まえなければならず、朽木勘三郎も朽木組を挙げて探索に乗り出すのだった。
「開かずの間」
下り酒問屋和泉屋のひとり息子文太郎は、女の幽霊の言葉を聞いて寝付いてしまう。文太郎の幼馴染である弥太の調べた結果を聞き、岡っ引きの伸六は一つの結論を得るのだった。
「木兎引き」
小鳥を育てることに執着している千八百石旗本大久保家の隠居の主計(かずえ)は「ズク引き」を見ることになったのだが、そこに珍しい鳥がかかり・・・。
「隠れ蓑」
勘三郎は、藤原道場時代に免許皆伝を巡り遺恨のあった小池文造の非常に荒んだ姿を見かけたとの話を聞いた。店の者をすべて、用心棒まで殺すという賊を追い掛けていた勘三郎は、小池文造を見かけたという見世物小屋を調べるのだった。
第一話の表題ともなっている「門前捕り」。町奉行所の管轄は町方だけだった時代、武家屋敷内で捉えた賊には手を出させず、門前で待つ町方に引き渡し、逮捕させたそうで、これを「門前捕り」と言ったそうです。
第二話は勘三郎はほとんど出てこずに、弥太の親分である伸六が安楽椅子探偵のような立場になる珍しい構成です。
第三話の「ズク引き」とは、ミミズクをおとりにして小鳥を捕らえることを言うそうです。この物語は捕物帳というよりは、江戸期における小鳥の飼育についての知識が披露されています。小鳥の話と言えば、小鳥屋の物語なので当然ですが梶よう子の『ことり屋おけい探鳥双紙』がありました。梶よう子の作品らしい優しい目線の人情ものでした。
第四話では小池文造という勘三郎の藤原道場時代の物語が絡んできます。時代小説にありがちな過去の人物像とは異なった古い知己という設定とは異なり、荒んではいても普通なのです。強くて人情味豊かというありふれた人物像の背景、つまりは勘三郎の人間像本体が少しずつ明らかになってくる物語でもあります。
前作で感じた物足りなさを、少しずつではありますが補ってくる作品です。単なる捕物帳の域を越えたところでの面白さをもたらしてくれる、さすがの野口卓の物語になってきました。