「松山鏡」
得意先の嫁から、鏡の出てくる落語を訊ねられた梟助じいさんだったが、鏡の出てくる落語がほとんどない。ひねり出した落語が「鏡のない村」という名も持つ「松山鏡」という話だった。
「祭囃子が流れて」
仕事一筋に生きてきて、ただ一つの楽しみが梟助じいさんの話を聞くことだという「狒狒
「婦唱夫随」
津和野屋の主人夫婦の宇兵衛と佐和が、犬や猫も人間の言葉がわかるのだろうか、と聞いてきた。そこで梟助じいさんは、根岸鎮衛(やすもり)の「耳嚢(みみぶくろ)」に書かれている「猫物をいう事」の話をするのだった。
「夏の讃歌(ほめうた)」
ある日、梟助じいさんは呉服問屋丹後屋の隠居のナミ婆さんと話す機会を得た。婆さんは人生の三つの節目、誕生と結婚そして死に一日で巡り合わせたことがあったというのだ。
「心の鏡」
初めての武家屋敷で、「古鏡記」という古い本に書かれている白銅の鏡と思われる古びた鏡の磨ぎを頼まれた。梟助じいさんはその本について知りたいこともあり、鏡の磨ぎを引きうけるのだった。
ご隠居さんシリーズ二作目の連作短編集です。
前作の最後「庭蟹は、ちと」の中で梟助じいさんの正体は明らかになったのですが、爺さんは変わらずに町を流し鏡を磨ぐ日々です。
いつもは爺さんの話を客が聞くのですが、本作では「祭囃子が流れて」と「夏の讃歌(ほめうた)」では爺さんが聞き役に回っています。特に「夏の讃歌」では話をするナミ婆さんの若やぐ姿が描かれ、梟助じいさんの聞き上手としての姿も見えています。ただ、「祭囃子が流れて」は今一つ分かりにくい話でした。
「婦唱夫随」に出てくる根岸鎮衛の「耳嚢」とは、南町奉行に就任した根岸肥前守鎮衛というという実在の人物の随筆のことで、風野真知雄が『耳袋秘帖』という小説にしています。これは、「耳嚢」とは別に怪異譚を集めた『耳袋秘帖』という雑記帳があったという設定の物語です。
また、「心の鏡」で出てくる「古鏡記」という本は、隋末唐初頃の文語小説で「作者が,かつて師事した侯生という人物から受けた古鏡が,妖怪の正体をあばくなど,霊妙を現すいくつかの事件を綴ったもの。」のようです。(「古鏡記(こきょうき)とは – コトバンク」:参照)