腕利きの鏡磨ぎである梟助じいさんは、落語や書物などの圧倒的な教養があり、人あたりもさわやか。さまざまな階級の家に入り込み、おもしろい話を披露し、ときにはあざやかに謎をときます。薀蓄は幅広く、情はどこまでも深い。このじいさんの正体やいかに…。江戸の“大人”を描く、待望の新シリーズ誕生! (「BOOK」データベースより)
「三猿の人」
主人公の梟助じいさんの紹介を兼ねた物語です。双葉屋の内儀に梟助じいさんの仕事である鏡磨ぎの説明をし、そのまま「鰻の落とし話」を語ります。
「へびジャ蛇じゃ」
客先の若旦那の「巳年に因んで、蛇の話を」して欲しい、という求めに応じて、蛇尽くしのお話を語る梟助じいさんです。
「皿屋敷の真実」
瀬戸物商但馬屋の出戻り娘真紀の話で、鏡作りについての説明もあって、また怪談話の「番町皿屋敷」をめぐるトリビアにもなっている話です。良質な人情話でもあります。
「熊胆殺人事件」
旗本の殿様を相手に、熊の胆(い)売り殺しを巡る捕物帳の趣きを持った話。
「椿の秘密」
高名な「八百比丘尼」の物語を絡めたファンタジーです。
「庭蟹は、ちと」
息子に問い詰められた梟助じいさんの独白で爺さんの正体が明らかにされ、その話が極上の人情話として仕上がっています。
後記の文藝春秋の本の話WEBでスポーツライター・ジャーナリストの生島淳氏が「『ご隠居さん』を読んだときの驚きは、「時間でもつぶしていくか」と気軽に寄席に入ったら、泣きながら寄席を後にした――そんな体験と似ている。」と書いておられます。
まさにその通りで、第二話の「へびジャ蛇じゃ」あたりまでは著者の落語に対する知識や当時の生活についての博識ぶりは分かっても、物語としては外れかもしれない、などと思っていたのですが、その後、さすがに野口卓という思いに代わるほどの作品へと変化していました。