野口 卓

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文庫

祥伝社

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園瀬藩主斉雅の長子ではあるが、妾腹の子であるために藩主のあとは継げない亀松は、園瀬藩家老九頭目伊豆の婿養子として一亀を名乗り園瀬に国入りするよう、父斉雅から命じられる。一亀が園瀬に入ると、園瀬では藩政改革のためにと一亀をまつりあげようとする集まりが持たれていた。

野口卓の人気シリーズの一つである『軍鶏侍』シリーズの番外編、という位置づけの作品と言っていいのでしょう。

本書を読み始めは、『軍鶏侍』シリーズと舞台を同じくする物語だと思いながら読んでいました。しかしながら読み進めると、『軍鶏侍』では主人公である岩倉源太夫が園瀬藩の権力争いに巻き込まれる話が展開されますが、この物語はその折の政争を別な視点で描いた作品だったのです。

ということで、この場面は『軍鶏侍』のあの場面のことだ、と実に楽しみながら読むことができました。勿論『軍鶏侍』の岩倉源太夫も登場します。権力者側から同じ場面を描いているので岩倉源太夫が登場するのも当たり前と言えば当たり前ですが、ここの構成が実に面白い。

また、本書の主人公である一亀は、武士は見ることさえ許されていない盆踊りに加わったことが発覚し、裁許奉行とされてしまいます。この際の盆踊りの描写が上手いのですね。モデルである「阿波踊り」を彷彿とさせる踊りが、実に軽やかに、また楽しそうに描写してあるのです。

この踊りの描き方の上手さもさることながら、舞台となる土地の風景の叙述があってこそのこの盆踊りであり、物語だとの思いを深くしました。それほどに情景描写が上手いのです。この点は『軍鶏侍』シリーズにおいても感じたことなのですが、本書では一段とその思いを強くしました。

こうしたこともあって、藤沢周平が描いた海坂藩との比較がされるのでしょうし、またそれも当然だと思うのです。藤沢周平の海坂藩ものと言えば『海坂藩大全(上・下)』があります。直木賞受賞作『暗殺の年輪』も収めた一読の価値ありの作品でしょう。藤沢周平の情景描写の見事さは今さら言うまでもないのですが、野口卓という作家もまた負けず劣らずの上手さを発揮しています。

勿論、条件描写が上手いというだけではありません。テンポあるストーリ展開、そしてそのストーリーを読ませる文章の上手さもまた評価されて良いと思うのです。

[投稿日]2016年11月05日  [最終更新日]2016年11月5日
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