中山 七里

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難聴を患いながらも、ショパン・コンクールに出場するため、ポーランドに向かったピアニスト・岬洋介。しかし、コンクール会場で刑事が何者かに殺害され、遺体の手の指十本がすべて切り取られるという奇怪な事件に遭遇する。さらには会場周辺でテロが頻発し、世界的テロリスト・通称“ピアニスト”がワルシャワに潜伏しているという情報を得る。岬は、鋭い洞察力で殺害現場を検証していく! (「BOOK」データベースより)

岬洋介シリーズの第三弾で、今回はポーランドのワルシャワで開催されたショパンコンクールが舞台の長編推理小説です。

2010年10月のショパンコンクールは、旧市街市場広場での爆弾事件、聖ヤン大聖堂の爆弾事件とテロ行為の犯人と目される「ピアニスト」と呼ばれている世界的テロリストが、ワルシャワに潜伏しているという中で開催されます。

そして、一次予選最終日にはテロ特別対策本部所属の刑事であるスタニフワフ・ピオトルが殺されるという事件が起きるのでした。それも、遺体の全部の指が第二関節から切り取られていたのです。

本作品ではこれまでと異なり、岬洋介自身がピアニストとしてワルシャワでのショパンコンクールに参加するなかで、そこで起きた殺人事件をこれまで同様に解決していくのです。

また、当然ですが音楽を背景にしている点もこれまでと同様です。もちろん音楽はショパンの音楽であり、とくに「革命のエチュード」の持つ意味は大きなものがあります。

ポーランドは、ロシア、プロイセン、それにオーストリアといった近隣の大国による併合によって消滅という事態も経験し、そんな中から自国の独立を勝ち取ってきたという歴史を持つ国です。

この第二次世界大戦時におけるナチスによるポーランド侵攻といえば、この時代を背景にした小説として 須賀しのぶの『また、桜の国で』という作品を忘れてはいけません。

この作品は、日本大使館に勤務する一人の日本の若者の、緊迫するポーランドという国において自分はどのような行動を取るべきかと苦悩する姿を、実在の人物をも織り交ぜながら、併せて抑圧されるポーランドの市民、加えて弾圧されるユダヤの民の姿をも描き出している、直木賞の候補にもなった力作です。

本書『いつまでもショパン』はそういう歴史を持つポーランドという国のワルシャワで、ショパンコンクールの準優勝者を出してきた家系に育ったヤン・ステファンスという少年の目線で語られる物語です。「ポーランドのショパン」によるショパンコンクールでの優勝を至上命題とされるステファンですが、ショパンコンクールの参加者である榊場隆平や岬洋介の音楽に耳を傾け、自分の力量を知るのです。

一方で音楽という芸術の高みに登ろうとするコンクール参加者たちの心象を細やかに拾い上げ、それを表現し、読者に提示するこの作者の力量は、相変わらず凄いとしか言いようがありません。

ただ、音楽に関しての描写の凄さとは別に、小説としての本書についての感想は決して高いものとは思えませんでした。あまりにも音楽の描写、演奏者の演奏や楽曲の解釈についての描写が長すぎるのです。

また、クライマックスでの岬洋介の演奏の効果についてのある出来事の描き方は、とても素直に受け入れることはできませんでした。もしかしたら音楽に対しあまりにも無知な私であるからこその感想なのかもしれませんが、岬洋介というピアニストの奏でる音楽の効果に対する過大評価としか思えないのです。

音楽の表現の点では156回直木賞、2017年本屋大賞のダブル受賞を果たした 恩田陸の『蜜蜂と遠雷』という小説が素晴らしい作品でした。

この作品は、実際に存在する「浜松国際ピアノコンクール」をモデルとする「芳ヶ江国際ピアノコンクール」という架空のピアノコンテストを舞台に、16歳の風間塵を台風の目として、天才少女栄伝亜夜20歳、名門ジュリアード音楽院の19歳マサル・C・レヴィ=アナトール、それに現在は楽器店勤務である28歳の高島明石という出場者らを中心に、彼らの課題曲にたいする理解や、演奏の模様などを、詩情あふれる文章で表現した青春群像劇です。

ほとんど全編と言っても過言ではないほどに、コンクール参加者のピアノ演奏場面を情感豊かに描き出しているその力量は、本書での感動をも越える素晴らしさでした。

本書『いつまでもショパン』とは、シリーズ内での面白さを見ても前二作には及ばないと感じましたが、それでも中山七里という作家の力が見える作品ではあると思います。

先の『蜜蜂と遠雷』と本書との音楽の表現に対する文章を読み比べているというのも面白いものではないでしょうか。

[投稿日]2017年11月25日  [最終更新日]2017年11月25日
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