かつて御家人として剣の道に生きていた玉吉は、今は幇間として裸踊りで座敷を沸かす日々を送っている。ある日、玉吉は己の過去を知る人物から呼び出され、三年前から江戸を荒らす押込み強盗について調べ始める。裏で糸を引く存在に気づいたことをきっかけに、次第に大きな陰謀に巻き込まれていくことに…。果たして、玉吉は稀代の悪に正義の剣を振るうことができるのか!?江戸の民のため太鼓持ちが颯爽と闇を討つ、痛快時代小説第一弾。(「BOOK」データベースより)
紀之屋玉吉残夢録シリーズ第一弾の、幇間という珍しい職業の男を主人公としている、ハードボイルドな長編の時代小説です。
主人公の紀之屋玉吉は幇間です。いわゆる太鼓持ちですね。一説には曽呂利新左衛門がその機知を生かし太閤秀吉のご機嫌伺いをしていたため、座敷で旦那衆の機嫌を取ることを「太閤持ち」から「太鼓持ち」というようになったそうです(ウィキペディア : 参照)。
玉吉は元御家人で本名を澤井格之丞といい、蝦夷地にわたり辛苦の末舞い戻ってきたという設定です。
剣術の腕も相当なもので、そこを与力の中島嘉門らに目をつけられ、言わば仕置人のような仕事を持ちかけられます。断りながらも、自ら問題の事件を調べ始めますが、そこにはかつての仲間の名前が見つかるのでした。
思いのほか、テンポのいい文章です。武士が町人の座敷で裸踊りをして生計を立てる。そこには徹底して心まで落ちてしまうか、本書の主人公のように人間としての矜持を持ちつつ生きていくのかで大きな差があるのでしょう。
本書のラスト近くで格之丞の過去が少しだけ語られます。そこに裸踊りをする自身の覚悟も垣間見えます。
軽く読めるのですが、ハードボイルドタッチの展開は引き込まれてしまいました。決してストーリー展開は練れているとは思えないのですが、それでもリズム良く引き込まれます。面白いです。