三浦 しをん

イラスト1
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文庫

光文社

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馬締光也は先任者の荒木公平が定年で退職した後を受け、辞書編集部を継ぐことになる。その馬締光也を中心として荒木公平を顧問とし、国語学者の松本朋佑を監修者として、中型の辞書「大渡海」出版を目指す玄武書房辞書編集部の努力が描かれています。

辞書の編纂という、私達が普段利用していながらその裏側を何も知らない世界を垣間見せてくれます。

その業務は想像以上の困難を伴う作業でした。モデルとなっている「大渡海」という中型の辞書でその見出し語は二十万語を越えるそうです。その見出しの大半にある使用例や、用例には一言たりともミスがあってはなりません。即ちその校正の作業の膨大さは大変なものです。更には辞書の装丁に紙質へのこだわりと、為すべき仕事は山積しているのです。そうした編集者の苦労の一端が読者の眼に示されます。

読者はその作業の困難さに眼をみはりつつ、物語の世界にどんどん引き込まれていきます。更に、馬締光也には林香具矢という女性が現れ、その成り行きも気になるところです。

物語は編集作業の困難さを示し、馬締が編集作業に没頭することになるまでの前半と、後半の辞書の完成に至るまでの話とでは十数年という時の経過があります。登場人物も変化を見せ、前半では馬締とは何もかの反対の性格の西岡正志という男が仕事上のパートナー的存在として配置され、後半では西岡の位置に岸辺みどりという女性が配置されることになります。補佐する人物の切り替えで年月の経過を示し、同時に読者の関心を新たなものとしているようです。

身近でいながらその成り立ちについてはあまり知らない「辞書」の編纂という作業が中心であり、「辞書」の世界への知的好奇心を満たしてくれるとともに、このチームの人間模様が面白く、爽やかな感動をもたらしてくれます。2012年の本屋大賞を受賞した作品というのも納得です。

ただ、今のデジタル全盛の時代の辞書作成作業が本書と同様なのか、結局はアナログなカードを使用することがその人のスタイルならば仕方が無いと言えるのか、少々気になった点でした。

松田龍平主演で2013年に映画化もされ、2013年春には早くもテレビの地上波でも放映されました。

蛇足ながら、本書はどことなく 夏川草介の『神様のカルテ』を思い出す作品でもありました。共に自分の仕事に真摯に取り組む主人公とそれを支える女性の存在が描かれています。そしてその女性は手に職を持ち、自分というものをきちんと持った女性なのです。この両作品で主人公を支える女性を宮﨑あおいが演じています。

[投稿日]2015年03月26日  [最終更新日]2015年3月26日
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