鎌倉の片隅にひっそりと佇むビブリア古書堂。その美しい女店主が帰ってきた。だが、入院以前とは勝手が違うよう。店内で古書と悪戦苦闘する無骨な青年の存在に、戸惑いつつもひそかに目を細めるのだった。変わらないことも一つある―それは持ち主の秘密を抱えて持ち込まれる本。まるで吸い寄せられるかのように舞い込んでくる古書には、人の秘密、そして想いがこもっている。青年とともに彼女はそれをあるときは鋭く、あるときは優しく紐解いていき―。(「BOOK」データベースより)
「ビブリア古書堂の事件手帖」シリーズの第二作目です。
第一話 アントニイ・バージェス『時計じかけのオレンジ』(ハヤカワNV文庫)
第二話 福田定一『名言随筆 サラリーマン』(六月社)
第三話 足塚不二雄『UTOPIA 最後の世界大戦』(鶴書房)
エピローグ 坂口三千代『クラクラ日記』(文芸春秋社)II
栞子がやっと退院してきました。大輔は、坂口三千代の『クラクラ日記』を五冊も店先にある均一台に置くように頼まれます(プロローグ)。
第一作目の第二話『落穂拾ひ・聖アンデルセン』で登場した小菅奈緒が、妹の小菅結衣の読書感想文を見て欲しいと言ってきます。しかし、栞子は、結衣は『時計じかけのオレンジ』は読んでいないと言い、何故そう考えたかを聞かせるのでした(第一話)。
高校時代に大輔と付き合っていた晶穂が、亡くなった父親の蔵書を売ることになっていたと言ってきます。大輔は栞子と二人で晶穂の実家へと向かい、数十万円の本があると言われますが、そうした本はありませんでした。そして栞子は亡くなった父親の晶穂に対する思いをとあることから推測し、伝えるのです(第二話)。
一人の男がビブリア古書堂まで抱えてきた本の査定を頼んだまま、帰ってしまいます。その男が足塚不二雄の『UTOPIA 最後の世界大戦』(鶴書房版の初版)の買い取り価格を聞いてきたため、栞子は、何故か男は同書を持っているとして、男の家を推理して男の家へと向かうのでした(第三話)。
後日、大輔は栞子から、栞子の三冊の『クラクラ日記』を均一台に出すように言われ、その本を新たに買った理由を当てて見せるのでした(エピローグ)。
第一巻で見せた雰囲気をそのままに、古書にまつわる知識をミステリーとして仕立て、読ませる手腕には脱帽するしかありません。
また、『クラクラ日記』や『時計じかけのオレンジ』など、個人的にも懐かしいタイトルが見られ、そういう点でも興味を持った作品でした。
坂口三千代の『クラクラ日記』は、主人公の坂口三千代にあたる役を若尾文子が、そして夫の坂口安吾にあたる役を藤岡琢也が演じたテレビドラマとして、1968年に放映されました。高校生だった筈の私ですが、坂口安吾のことは知らなくても、テレビドラマとして面白く見た記憶があります。
また、アントニイ・バージェスの『時計じかけのオレンジ』は、『2001年宇宙の旅』などで有名なスタンリー・キューブリック監督の手により映画化され、原作は読まないままに映画だけを見たものです。衝撃的な映像作品で、暴力に満ちた作品でありながら独特な感性でスタイリッシュに仕上げてあったと覚えています。日本では1972年4月に公開されたそうですから、私が大学生の時に見たことになります。マルコム・マクダウェルのメイクを施したポスターが印象的でした。
更には第三話の足塚不二雄にしても、漫画家の藤子不二雄のペンネームであり、漫画好きにはたまらない作品です。私も貸本屋世代であり、かなりの作品は読んでいるはずですが、残念ながらこの作品は読んだ記憶はありません。
ともあれ、第三話では栞子の母親の篠川智恵子の名前が登場してくることを忘れてはいけません。この女性は、シリーズを通して栞子と大輔との物語に影に日なたに現れ、二人の生活をかき乱していくのです。