今野 敏

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中央公論新社

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ゴールデンウィーク明けのある朝、出勤した警視庁捜査一課・碓氷警部補の元に都内で起こった二件の自殺と二件の殺人の報が入る。発生時刻はすべて同じ日の午後十一時だった。関連性を疑う第五係は、田端捜査一課長の特命を受けて捜査を開始する。その後、さらに同日同時刻に都内で盗撮・強姦未遂等あわせて三件の事件が起こっていたことが判明。一見関連性がないように見える各事件は、実は意外な共通点で繋がっていた―。知力を駆使して、同時多発事件の謎を解け。藤森紗英心理調査官、再び! (「BOOK」データベースより)

警視庁捜査一課に属する碓氷警部補を主人公とする長編警察小説で、碓氷弘一シリーズの六冊目です。

同日の同一時刻に起きた二件ずつの殺人事件と自殺。一見関連のなさそうなこれらの事件に、「偶然という言葉を嫌う」警察官の一人である警視庁の田端捜査一課長が疑念を抱き、碓氷警部補の属する捜査第五係が捜査を開始することにななります。

捜査の途中、今度は警察庁の心理捜査官である藤森紗英も関心を持っていて碓氷警部補らの捜査にくわわることになります。同じように同時刻に強姦未遂が二件、盗撮事件が一件起きている事案があるというのです。

こうして本書では藤森紗英の分析が話の中心になってくるのですが、だからなのか、今野敏の小説ではありがちとはいえ、本書では特に会話文が多くなっています。


警察小説には、例えば 大沢在昌の『新宿鮫』という物語が、新宿署の鮫島警部という独特なキャラクターを中心に、ハードボイルドタッチで動的に物語が展開するように、一人のヒーロー中心にした物語があります。暴力を手段とすることをためらうことなく職務を遂行し事件を解決する、警察小説のひとつの形としてあるように思えます。

また、本書の作者である 今野敏の『安積班シリーズ』のように、中心となる主人公個人を描くというよりも、チームとしての捜査員の動きを描くタイプもあります。このシリーズは東京湾臨海署の刑事課強行犯係安積班の活躍を描く小説で、班長の安積警部補を中心に個性豊かなメンバーそれぞれの活動を描き出す人気シリーズで、チームとしての捜査が描かれています。

本書はこうしたタイプとは異なり、まるで一場面ものの舞台上での役者たちの演技のようでもあります。つまりは場面の転換にあまり意識がいかず、藤森紗英との会話により物語が展開していく、極端に言えば舞台上での会話劇のような静的な印象なのです。

というのも、心理捜査官である藤森紗英は、プロファイリングにより当該犯罪を分析し、犯人像を推論することで、捜査官らを手助けする立場にあるのですから、会話文が多くなるのももっともといえばもっともなのかもしれません。

ここでプロファイリングといえば、 富樫倫太郎の『生活安全課0係シリーズ』の空気の読めないキャリアを主人公小早川冬彦が思い出されます。

この物語はコミカルな長編の警察小説で、ずば抜けた頭脳を持つキャリアの小早川冬彦が、出向先の科捜研から、杉並中央署生活安全課に突如誕生した「何でも相談室」に赴任することとなり、空気が読めない男冬彦が杉並中央署をかき乱しながらも、その頭脳が冴えを見せる物語です。

本書の藤森紗枝は、冬彦のような能天気な男ととは異なります。捜査員が集めてきた種々の事実から犯人像を導き出す過程にコミカルな要素はありません。そして、あるクリニックへとたどり着くのです。

当然のことではありますが、会話文が主体だからと言って面白くないというのではなく、本書の特徴として静的な印象があるというだけで、今野敏の物語の面白さは十分に持っている小説です。

ちなみに、警察庁の心理捜査官の藤森紗英は、本シリーズ四冊目の『エチュード』でも登場しており、その時も碓井警部補と組んでいるキャラクターです。

[投稿日]2017年12月05日  [最終更新日]2017年12月5日
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