貴志 祐介

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1000年後の日本。豊かな自然に抱かれた集落、神栖66町には純粋無垢な子どもたちの歓声が響く。周囲を注連縄で囲まれたこの町には、外から穢れが侵入することはない。「神の力」を得るに至った人類が手にした平和。念動力の技を磨く子どもたちは野心と希望に燃えていた…隠された先史文明の一端を知るまでは。( 上巻 :「BOOK」データベースより)

町の外に出てはならない―禁を犯した子どもたちに倫理委員会の手が伸びる。記憶を操り、危険な兆候を見せた子どもを排除することで実現した見せかけの安定。外界で繁栄するグロテスクな生物の正体と、空恐ろしい伝説の真意が明らかにされるとき、「神の力」が孕む底なしの暗黒が暴れ狂いだそうとしていた。( 中巻 :「BOOK」データベースより)

夏祭りの夜に起きた大殺戮。悲鳴と鳴咽に包まれた町を後にして、選ばれし者は目的の地へと急ぐ。それが何よりも残酷であろうとも、真実に近付くために。流血で塗り固められた大地の上でもなお、人類は生き抜かなければならない。構想30年、想像力の限りを尽くして描かれた五感と魂を揺さぶる記念碑的傑作。( 下巻 :「BOOK」データベースより)

 

1000年後の日本のとある集落「神栖66町」を舞台にした長編のSF小説で、第29回(2008年)日本SF大賞受賞作品です。

作家の想像力の見事さを思い知らされる見事な作品で、文庫本で全三巻という大部ながら、一気に読み終えてしまうほどに引き込まれた作品でした。

 

1000年後の日本のとある集落「神栖66町」では、子供達は「呪力」を身につけるべく学校で訓練を受けていた。

主人公の渡辺早季は夏季キャンプで「ミノシロモドキ」から今の時代の禁断の知識を教えられる。

その後早季達は「バケネズミ」の襲撃により捉われてしまうが、「塩屋虻コロニー」のバケネズミ・スクィーラや「大雀蜂コロニー」の援軍に助けられ、無事「神栖66町」に帰りつくことができたのだった。

そして、早季達も14歳になった。

 

とにかくそのイマジネーションの凄さに圧倒されます。

「呪力」とは念動力のことですし、「ミノシロモドキ」とは先史文明が遺した「国立国会図書館つくば館」の端末機械であり、「バケネズミ」とはハダカデバネズミから進化したとされる生物のことです。

このようにこの通常の小説とは異なる概念が随所に出てきます。

 

イマジネーションの凄さと言えば、 B・オールディスの『地球の長い午後』を挙げないわけにはいきません。

この『地球の長い午後』は、太陽がその寿命を終える日も近い、遥か未来の我が地球を舞台にした物語です。植物に覆われた地球の姿の描写は驚異的で、そんな世界での少年たちの冒険が始まります。

 

 

話を本書『新世界より』に戻すと、『新世界より』はSF作品であり、世界観からすればファンタジーと分類されるかもしれません。

でも、その世界感がきちんと成立していて、読んでいて違和感がありません。勿論、探せば細かな矛盾点や論理の破たんしている個所などが見つかるのかもしれませんが、見つけようとも思はないほどに、作家の筆力で押し切られてしまいます。

読み手はその世界観に飲み込まれてしまうのです。

 

ただ、私のようにSFやファンタジー好きの人間にはたまらない物語ですが、そうした空想小説を好まない人には受け入れられないと思います。

また、1000頁を超える分量で、文庫本でも上、中、下の三分冊になる大長編です。ライトノベルに慣れた人にも取り付きにくいかもしれません。しかし、

一度入り込んでしまえばこの不思議な世界の虜になることでしょう。

 

本書とは逆の短編集ですが、少し似た雰囲気を持つ作品として上田早夕里の描く夢みる葦笛 という作品集があります。

この本は、人間の体に対する改変を中心に「異形のもの」という存在を見据えて、ホラーから恋愛小説までを描いた全十編からなる短編集であって、どことなく似ています。

 

 

でももしかしたら、同じ作者の華竜の宮という作品のほうがふさわしいのかもしれません。

25世紀の未来、地球はホットブルームと呼ばれる地殻変動による海底の隆起で、海水面が260メートル近くも隆起し、陸地を失ってしまった世界の話で、文庫本で上下二巻の本書に負けないほどの壮大な物語です。

 

[投稿日]2015年04月09日  [最終更新日]2022年8月25日
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