木下 昌輝

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自らの命と引き替えに、その強さを知った―剣聖と呼ばれた男の真の姿とは―。7人の敗者たちから描く、著者渾身の最新歴史小説。


宮本武蔵と言えば国民的作家と言われた吉川英治の『宮本武蔵』でしょう。沢庵和尚がいて、お通さん、本位田又八がいて、宍戸梅軒や吉岡一門、そして巌流島での佐々木小次郎との決闘など、中村(萬屋)錦之介主演の映画もあって、私らの世代であれば子供でも知っていた作品でした。

しかし、本書はそんな武蔵像とは全く異なる物語です。本書の武蔵は父無二斎のもと剣の修練にいそしむ若者です。孤高の剣豪ではなく、弟子を引き連れ江戸に道場を構える剣士でもあります。

また、闘う相手も高名な武芸者である宍戸梅軒ではなく、無頼とも言えそうな、しかし、かつてかかわりのあった千春という女を忘れずにいるシシドであり、吉岡一門の当主である吉岡源佐衛門であり、その弟の又一郎であって、吉岡清十郎と伝七郎ではありません。幼い又七郎を切り殺したという一乗寺下り松の決闘は触れてもありません。

こうしたこれまでとはかけ離れた武蔵像は、作者が資料を読みこんだ結果だそうで、全くの想像の産物というわけでもなさそうです。

武蔵の好敵手である佐々木小次郎も本書では津田小次郎となっているのですが、資料を読みこんだ結果として津田姓だとの説をとったということでしょう。

本書の第三話「皆伝の太刀」あたりまではまだこれまでの武蔵とは違う物語、という程度でしたが、時系列が前後して、無二斎の過去に触れる第四話の「巌流の剣」あたりからはこの物語自体が別の顔を見せ始めます。作者の仕掛けが少しずつ明かされてくるのです。

そして「無二の十字架」で本書の仕掛けがその本領を発揮します。読者はここにおいてどんでん返しにも似た種明かしを見せつけられます。

これまでの武蔵とは異なる武蔵像という点では、 花村萬月の『武蔵』もまた極端な解釈の上に立つ武蔵でした。エロスとバイオレンスというよりは生の発露としての「性」と「暴力」と言った方がしっくりきそうな作品が多いこの作者ですが、この『武蔵』もまた“性”と“暴力”満載の物語でした。内省的な武蔵が次第に成長していく姿が描かれていて、なかなかに面白い作品です。

異なる武蔵像という点では、漫画で井上雄彦描く『バガボンド』という作品が面白い。一応吉川英治の『宮本武蔵』が原作ではあるそうですが、佐々木小次郎が耳が聞こえない人物という設定であったり、かなり独特な解釈で描いてあります。でも、漫画とはいえかなりの読み応えがある作品です。

ともあれ本書木下昌輝著の『敵の名は、宮本武蔵』は、全く荒唐無稽の物語のように見えながら、資料を駆使しで新しい解釈を施した物語であり、第157回直木賞の候補作品として挙げられるように、エンターテインメント小説としての面白さを十二分に持った小説でした。

[投稿日]2017年08月11日  [最終更新日]2017年8月11日
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