主人公は南町奉行の根岸肥前守鎮衛という歴史上に実在した人物だそうで、知らなかったのだけれど、あの鬼平こと長谷川平蔵と同時代の人らしいです。
更に、「耳袋」も根岸肥前守が実際書いていた随筆のようなものが実在するらしく、本シリーズではその裏耳袋帖とも言うべき「耳袋秘帖」なるものを設定して、事件の狂言回しにしています。
この事件がまたしゃべる猫や古井戸の呪いなど怪異なものが絡む話で、その謎解きが各短編を組み立てつつ、巻毎の現実の人間の闇を暴いていく、という面白い構成をとっています。
単に怪異現象を全面的に押し出すのではなく、そのような話をきっかけとしながら現実の事件を解決していくその手法は、滑稽なせりふ回しとともに読み進んでしまいます。一読の価値ありです。
本シリーズは「殺人事件」(16巻)と「妖怪」シリーズ(6巻)との二系統があります。もともと大和書房から「だいわ文庫」として出版されていましたが、後に文藝春秋社から加筆新装丁されて再刊行されています。
出版状況については詳しくは文藝春秋社の耳袋秘帖シリーズ 紹介サイトをご覧ください。