梶 よう子

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幕末の動乱期、桑名藩藩士である速見丈太郎・栄之助兄弟の、時代に流されそうになるも必死で生きようとする姿を描いた物語です。侍の生き方を真摯に問うている作品で、決して明るい内容ではありません。

一枚の紙から二羽から百羽近くまで、四十九通りもの折り方がある繋がった千羽鶴“連鶴”。桑名藩に伝わるその折り鶴は女子の遊びではなかった。大政奉還から王政復古へと向かう幕末の動乱の中、親藩・桑名藩士として最後まで生きる道を選んだ速見丈太郎は、商家の婿養子となり「藩を捨ててくれ」と言い残して消えた弟・栄之助に思いを込めて、久方ぶりに連鶴を折った。信じる道が異なろうとも、我らは兄と弟なのだと―。親藩・桑名藩士として身命を賭す兄と商家の婿養子となった弟。幕末維新の激動は、二人に何を問い、いかなる明日を見せるのか?気鋭の女流作家が初めて幕末維新に挑んだ感涙必至の野心作!(「BOOK」データベースより)

本書は、幕末を描いた作品は多くある中で、桑名藩という珍しい藩を舞台にしていています。桑名藩の藩主は京都所司代を務めた松平定敬であり、京都守護職である会津藩主松平容保の実弟です。幕末で最後まで佐幕を貫いた藩ととして挙げられることの多い「会桑」とはこの両藩のことを指します。これに徳川慶喜を加え、幕末の京都で一大勢力として認知されたのが「一会桑政権」です。(ウィキペディア参照)高名な新選組はこの会津藩預かりという形で出発しました。

物語は主人公である兄の速見丈太郎の苦悩を中心に進みます。ただ、内心を描くことはいいのですが、何時までも苦悩する姿ばかりを見せられているようで、決してテンポよく読み進める作品ではありません。

丈太郎は自らが刀を取って戦うだけの意味を見いだせずにいます。そうした折、徳川慶喜は会桑の藩主松平容保、松平定敬の兄弟と共に江戸へ帰ってしまいます。丈太郎は戦いの最中にも関わらず大義を見失ってしまうのです。

他方、丈太郎の弟栄之助は商家に入り、侍を捨てたはずだがどうも行いに不穏なものがあり、その身が案じられてなりませんが、自分自身の身の振り方すら定まっていない丈太郎にはどうしようもないのです。もしかしたら、こうした丈太郎の存在自体がもどかしさを感じるのかもしれません。

同じように激動の幕末から明治にかけての若者たちの活動、苦悩を描いた作品はかなりの数に上ると思われます。新選組ものなどはこの分野に位置づけられるでしょうし、有名どころでは 司馬遼太郎の『竜馬がゆく』や、 子母澤寛の『勝海舟』などは歴史小説の最高峰に位置づけられる作品でしょう。

無名の存在を主人公にした作品も多く発表されていて、直木賞作品で言えば、 朝井 まかての『恋歌』や 木内 昇の『漂砂のうたう』もそうですね。

残念ながら、本書はこうした多くの作品の中では決して個性ある作品とは言い難いようです。梶よう子という作家の持っている優しい目線とどこかユーモラスで味のある文章から紡ぎだされる作品を期待したいものです。

[投稿日]2016年03月10日  [最終更新日]2016年3月10日
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